使える! 情シス三段用語辞典65「X-Road」
常に新しい用語が生まれてくる情報システム部門は、全ての用語を正しく理解するのも一苦労。ましてや他人に伝えるとなると更に難しくなります。『情シスNavi.』では数々のIT用語を三段階で説明します。
一段目 ITの知識がある人向けの説明
二段目 ITが苦手な経営者に理解してもらえる説明
三段目 小学生にもわかる説明
取り上げる用語を“知らない”と思った人は、小学生にもわかる説明から読んでみると、理解が深まるかもしれません!?
一段目 ITの知識がある人向け「X-Road」の意味
エストニア発のテクノロジー企業Cybernetica社が開発したデータ連携プラットフォームのこと。エストニア政府からの要請を受けて異なる機関のシステム・データベースをセキュアに連携できるシステムとしてX-Roadをローンチした。
エストニアの情報システム構成(画像出典「Estonian e-Government Ecosystem: Foundation,Applications, Outcomes」)
システム構成をみてもわかる通り、国民全員に割り当てられた番号「e-ID」、健康保険登録簿、車両登録簿といった情報が統合的に管理でき、「市民用」「企業家用」「公務員用」のポータルサイトが用意されていることがわかる。こうした行政に必要なデータとともに、関連機関や民間企業のデータ連携を実現した。
データ連携は専用線で保護するのではなく、インターネットを利用して、データの暗号化で保護する。連携先では情報の暗号・複合を行うセキュリティサーバーを構築して、政府機関のセキュリティサーバーと同期をとる。EUで法的に認められている証明書「e-Seal」を利用しており、連携先で問題が発生した場合は即座に切り離される仕組みとなっている。
医療機関のデータを連携して患者がどこの病院に行ってもこれまでの診断履歴を確認することができるようになった。また、裁判所、警察、弁護士関連のデータベースが連携することにより、裁判プロセスも効率化された。X-Roadの導入により、2016年1年間でおよそ820年分の労働時間が削減されたというから驚きだ。
いまやエストニアでは、99%の行政手続きがデジタル化され、900以上の行政機関や企業がX-Roadを使用しており、電子国家エストニアを支えるテクノロジーとなっている。X-Roadのテクノロジーは、フィンランド、アゼルバイジャンなども導入しており、今後導入国も増えていく見通しだ。
日本企業においても、X-Roadの活用が模索されている。東京海上日動火災保険がX-Roadをベースとした民間企業向けの製品「PlanetCross」で医療機関との間の損害保険金支払業務の簡略化、迅速化を図る実証実験を行った。診断書を郵送からデータ転送に変えることで保険金の支払いを1か月短縮できる可能性が見いだせたという。
日本においてもこのテクノロジーの活用が進むのか注目される。
二段目 ITが苦手な経営者向け
情シス小川さんと社長のある日の会話――
小川さん:社長、出張から戻ってきたんっすね。
社長:そうなんだよ。それが出張先で体調が悪くなっちゃってさ。病院に行ったんだけど、いつも飲んでる薬がわからなくて、大変だったんだよ。
小川さん:おくすり手帳を持っていかなかったんっすね。 震災の時なんかは、被害で薬がなくなってしまって深刻だったらしいっすよ。エストニアだったら自分のIDで診断歴とか飲んだくすりとか、全部わかっちゃうらしいっすけどね。
社長:全部の病院で同じデータベースを使っているんだ。
小川さん:いや、そうじゃないんですよ。国がX-Roadの技術使ってシステムを構築していて、各病院が国の規格に合わせてデータを連携させてるらしいっす。
社長:なんだ、そのX-Roadってのは。
小川さん:エストニアの会社が開発したデータ連携の基盤なんすよ。セキュリティも配慮されていて、安いコストで連携できるっていう。
社長:ほぉ。安く連携できれば参加しやすいな。
小川さん:そうなんすよ。エストニアでは病院だけじゃなくてほとんどの機関が連携されているから、結婚・離婚・不動産取引以外の手続きはペーパーレスらしいっす。
社長:それはすごいな。他の国でも利用できるんじゃないか。どこの国だってシステムがボコボコたくさんあって、連携に苦労してるだろう。
小川さん:そうなんすよね。フィンランドでも導入されていて、エストニアとの間で国境を越えた医療情報の連携もやってるらしいっす。日本でもX-Roadをベースにした民間向けの製品が開発されてるんすよ。
社長:これからは日本でもデータ連携がキーポイントになるかもな。
三段目 小学生向け
みんなは学校でタブレットを使ってるかい?
まだ使っていなくても、2020年にはプログラミングを小学校で学ぶようになるから、そのころにはみんなも持ってるだろう。
タブレットを使うのは、いろいろなものがデジタル化されているからなんだ。
将来はいつも使っている教科書もデジタル化されて、タブレットで見る日が来るだろう。
国が使用している文書もまだまだデジタル化されていないものが多いんだ。
今は投票したり、引っ越ししたりするときには、紙に書いて市役所に提出しているよね。
デジタル化されていないのは、いくつか理由がある。
そのうちのひとつが、行政の組織で別々のシステムを使っていることなんだ。
別々のシステムでデータをやりとりするために紙で処理をしていることも多い。
とても効率が悪いけど、全部をシステムにするには、とてもお金がかかるんだ。
「X-Road」は、システムとシステムのやりとりをするためのルールが決められていて、お金をあまりかけずにデータをやりとりする仕組みなんだ。
大切なデータをやりとりするときは、専用の回線を使うこともあるけど、それだと費用が高くなってしまうんだ。
X-Roadの場合は、データを暗号化してインターネットを利用してやりとりをする。安くて安全にデータをやりとりできるから、みんな安心して参加できるんだ。
X-Roadはエストニアの企業が開発した。いま、エストニアでは国で管理するデータをX-Roadでやりとりしているんだ。
エストニアは1991年にロシアから独立したバルト三国のうちのひとつだ。
エストニアは小さな国で、資源もとぼしい。独立したけど、いつロシアが再び攻めてくるかもしれない。
そんななかでエストニアは独立国家としてやっていくために、徹底したデジタル化に取り組んだんだ。
「X-Road」はエストニアがやりとりを全部デジタル化するために企業に頼んで作ってもらったものだ。
そして、政府の組織だけじゃなく、病院や銀行にも参加してもらい、市民が便利に使える機能を提供していったんだ。
エストニアが目指したのは、政府からも市民からも企業からも、互いにデータをチェックことで、不正をなくすこと。
いろいろなデータが連携されているから、たとえば公務員の給料を市民が見ることもできるんだ。公務員が不正をするのを防ぐ役割もあるんだよ。
X-Roadはエストニアにとって国を運営するためになくてはならないものなんだ。
さて、ご理解は深まったでしょうか?
【執筆:編集Gp 山際 貴子】