【情シス基礎知識】今、データセンターは地方がアツい!

情報システムのクラウド化が進んでいます。それに伴い、データセンターのニーズも増えています。しかしながら、「世界と戦えるデータセンター」が少ないのが日本の残念なところ。海外に比べ割高な電気料金となっている日本では、そもそもデータセンター運営には不利な環境にあります。そこで、(サーバー冷却の)電力消費量を減らし、省エネ化=低PUEのデータセンターとして注目を集めるのが「環境配慮型データセンター」です。今回は海外のデータセンター事情と共に石狩・青森・長岡で産声を上げた次世代のデータセンターといわれるその特徴を紹介します!

【クラウド時代】次世代の社会インフラを担うデータセンター

クラウドの普及が進み、情報システムは構築・保有・運用から利用の時代へ−−。

クラウドへの移行期にある現在、「データセンター」への注目度が高まっています。サーバーやネットワーク機器を設置して運用している場所、つまり情報システムの“マンション”のような存在です。もう少し説明すると、従来自社で運用を行なっていたシステム環境を委託できる施設のことで、「土地」「建物」「通信回線」「電源」などが用意されています。

さて、なぜデータセンターが注目を集めているかといえば、それはクラウドサービスの基盤だから。システムをクラウド化すれば、サーバーなどハードウェアの自社設置は不要になる一方、代わりにハードウェアやネットワークを運営してくれる場所が必要です。それをデータセンターが担ってくれるのです。今後、ますますクラウド化が進むことを考えれば、データセンターはすでに社会インフラであるといえます。

さて、このデータセンター、注目を集める一方で、実は課題が存在しています。

 

【課題】「増え続ける電力量」と「求められる省エネ化」

近年、ITやモバイルの普及とともにデータ量は爆発的に増加しています。IoTやAI、または5Gへの期待など、今後のニーズを考えればさらに勢いを増すのは明らかでしょう。当然のことながら、データセンターにはそれらの基盤となるサーバーなどのハードウェアが集中。この過密化から、大量のデータ処理にかかる機器の発熱量も増大。データセンターの安定稼働のためには大掛かりな冷却設備が欠かせません。これに伴い、サーバーの高性能化に伴いデータセンターの電力量は年々増加しており、「環境ビジネスオンライン」の『「一棟でコンビナートの数倍」 桁外れの電力を消費するデータセンター (後編)https://www.kankyo-business.jp/column/016929.php』によれば、「最近の大型データセンター一棟の電力消費量は、石油コンビナートの数倍」に匹敵するとか。

一方、持続可能型社会の実現に向け、あらゆる産業に求められる省エネ化。「パリ協定」の批准国の日本でもその機運は高まり続けていいます。しかし、この世の中の動向とデータセンターの現状は相反する。今後、データセンターにも省エネ化が求められるのは明らかです。

 

【注目!】データセンターのベストプラクティス「環境配慮型データセンター 」

上記の“莫大に電力を喰らう”データセンターの課題から、近年その数を増やしているのが「環境配慮型データセンター」です。寒冷地に建設した“超効率型データセンター”をさし、電力消費とコストを生む機械冷房の代わりに「外気や雪氷」を活用し、省エネを実現しています。日本ではまだ聞きなれないかもしれませんが、実はこの環境配慮型データセンター、世界の潮流なのです。

たとえば、Facebookは北極圏に近いスウェーデン北部に設置したり・・・


<画像出典:WIRED

Appleはオレゴン州にあった水力発電所を買収したり、ノースカロライナ州に太陽光発電所を開発して全自社施設の消費電力の100%を再生可能エネルギーで調達しようとしていたり・・・


<画像出典:macnn>

はたまた、Microsoftはイギリス沖の海底にデータセンターを設置したり、ロサンゼルスのベンチャー・Cloud Constellationは人工衛星を活用し、「宇宙データセンター設置」を計画していたり。

<画像出典:TechCrunch Japan


<画像出典:SpaceNews

海底や宇宙となるともはや未踏の世界ですが、このように世界の環境配慮型データセンター市場は今、“アツく”燃えています!

さて、国内にはどのような環境配慮型データセンターがあるのか? 見ていくことにしましょう。

「石狩データセンター(さくらインターネット)」

<画像出典:さくらインターネット>

<画像出典:https://www.sakura.ad.jp/csr/environment/

国内の環境配慮型データセンターの先駆け。データセンター/クラウド事業を手がける「NCRI社」が2008年発足した「寒冷地GEDC*推進フォーラム(旧:北海道GEDC研究会)」の技術を適用し、石狩市に構築。2011年11月に稼働を開始しました。
同市の低温外気とサーバーの排熱を活用し、サーバールームに適した温度を維持する構造となっています。
データセンターの電力消費に関しては「PUE」という数値で表し、1に近いほど電気効率が良いとされていますが、同センターのPUEは1.10付近。一般のデータセンターは2.0といわれており、いかにエネルギー効率化に優れるかがわかります。

*GEDC:グリーン・エナジー・データセンター

石狩データセンター:https://www.sakura.ad.jp/corporate/corp/datacenter.html#ishikari

「青い森クラウドベースデータセンター(青い森クラウドベース)」

<画像出典:https://aoimoricb.co.jp/challenge/>


<画像出典:https://aoimoricb.co.jp/feature/>

青森県六所村で2016年稼働を開始。同地の冷涼な自然の低温外気に加え、雪氷を併用する世界初の「雪氷冷房」を実現しています。
降雪のある冬のうちに雪山をつくり、それをブルーシートで保管。夏の時期には雪山の下に設置してある冷水配管を通じて空調に活用する。
PUEは1.2未満であり、この低PUEにより、「高密度環境による省エネ」を実現しているもの同センターの大きな特徴です。1ラックあたりの電力共有能力は一般的なデータセンターの数倍を誇り、より多くのサーバーを搭載できるラック環境を構築しています。

青い森クラウドベース:https://aoimoricb.co.jp

※民事再生手続きの後、現在「青い森データソリューション」として再出発しています

「新潟・長岡データセンター(データドック)」

<画像出典:https://www.datadock.co.jp


<画像出典:ITトレンド>

都内からのアクセスもよい新潟県長岡市で2018年1月稼働を開始。低温外気と雪氷を併用した「雪氷冷房」で低PUEを実現している。PUEは1.19。冷房コストは首都圏のデータセンターと比較し、38%減を達成するという。また、1ラックあたりの最大供給電力は30kVA、床対荷重は3.0t/m2と、GPUサーバー/HPC環境などの高負荷環境にも対応する世界最高峰のスペックであることも大きな特徴です。

また、このデータセンターの面白いところは、サーバーからの廃熱を有効活用し、水耕栽培と水産養殖を同時に行う”アクアポニクス”を実現。
単なるデータセンターではなく、SDGsなデータセンターとも言える。

データドック:https://www.datadock.co.jp(2021年2月に楽天へ事業譲渡)

 

これらのデータセンター以外にも、Yahoo! JAPANも2008年に福岡県北九州市に「北九州データセンター」を、2012年には福岡県白河市に「白河データセンター 」を建設し運用しているのは、広く知られるところです(『環境配慮型の次世代データセンターを建設』)。

 

【あたらしい地方】環境配慮型データセンターは地方創生のキーになるかも?

省エネ化と低コストへの希求、また首都直下大地震によるBCPの懸念を考えれば、データセンターの地方分散化と環境配慮型データセンターの建設は今後も一層進んでいくことでしょう。

そして、環境配慮型データセンターを設置することは、低PUEの実現以外にも大きなメリットが隠されています。

石狩データセンターは施設活用の電力を地元の自然エネルギー発電所から調達し「電力の地産地消」を実現するスマートシティ構想を描き、青い森クラウドベースデータセンターは機器の排熱を植物工場に供給する温室栽培を計画。新潟・長岡データセンターも排熱を利用して水耕栽培と水産養殖を行うとしています。つまり、データセンターは、地方にサービスや雇用を生む、“あたらしい地方をつくる施設”としても、大きな期待を集めています。

事実、石狩データセンターを例にすれば、石狩市はデータセンター誘致を加速化させる「企業促進条例」「グリーンエナジーDC立地促進条例」という、税制面/省エネ優遇の支援策を講じています。環境配慮型データセンターは、IT/クラウドの文脈だけではなく、今後の社会にとっても、大きな可能性を秘めた社会インフラなのです。

 

【執筆:編集Gp 坂本 嶺】

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