JITとAOTの違いとは?ソフトウェア性能に与える影響を解説
- 2025/6/12
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JITとAOTはソフトウェアの性能に直結する重要なコンパイル手法です。その違いと選び方を、基礎からわかりやすく解説します。
この記事の目次
1. パフォーマンスは魔法じゃない — それはエンジニアリングだ
コードを書くとき、私たちは機能やUIの実装に集中しがちですが、パフォーマンスの良し悪しを決定づけるのは「コードがどのようにマシン命令へ変換されるか」です。この変換プロセス、すなわち「コンパイル戦略」は、アプリの速度、リソース消費、スケーラビリティに大きな影響を与えます。
中でも主な方式は2つあり、それが JIT(ジャストインタイム) と AOT(事前コンパイル) です。この2つの違いを理解することは、モバイルアプリやバックエンド、クラウドアーキテクチャの設計判断に直結します。
それでは、それぞれを詳しく見ていきましょう。
2. JIT:実行しながらコードをコンパイル
JIT(ジャストインタイム)コンパイルは、プログラム実行中に、その場でコードをマシンコードへ変換するコンパイル方式です。
●JITの仕組み
• ソースコードやバイトコードがランタイム環境に読み込まれる
• JITコンパイラが頻繁に使用される部分(ホットパス)を監視する
• 必要に応じて、その部分だけ最適化されたマシンコードに変換する
●主な採用例
• Java Virtual Machine (JVM)
• .NET CLR (Common Language Runtime)
• JavaScriptエンジン(V8:Chrome、Node.jsなど)
●JITの特徴
JITは実行時の情報(ユーザー操作や入力データ)をもとに最適化できるため、動的な最適化に強いという利点があります。
3. AOT:実行前にすべてコンパイル
AOT(事前コンパイル)では、アプリケーションが実行される前に、すべてのコードがあらかじめマシンコードへ変換されます。デプロイ時点でバイナリが完成しているのが特徴です。
●AOTの仕組み
• ソースコードやバイトコードを完全なバイナリに変換
• そのバイナリが直接CPUで実行される
• 実行時の追加コンパイルは不要
●主な採用例
• CおよびC++のネイティブアプリケーション
• Go言語
• iOSアプリ(Swift、Objective-C)
• Angularフレームワーク(Angular AOTコンパイラ)
• GraalVMネイティブイメージ(Java)
●AOTの特徴
AOTは起動が速く、実行時の安定性も高いです。すべてが事前に最適化されているため、予期せぬ実行エラーの発生率も低減します。
4. コードがコンパイルされる流れ
JITとAOTの主な違いは次の通りです。
特徴 | JIT | AOT |
---|---|---|
コンパイルタイミング | 実行中 | 実行前 |
最適化の基準 | 実行時のデータ | 静的コード解析 |
起動時間 | 遅め | 高速 |
実行時パフォーマンス | 実行環境に応じて適応的に最適化 | 事前最適化で一貫した性能 |
メモリ使用量 | 増える傾向あり | 少なく抑えやすい |
デプロイサイズ | 初期は小さい | バイナリが大きくなる傾向 |
● 要点の整理
• JITは起動の遅さと引き換えに長期的な最適化を狙う
• AOTは柔軟性と引き換えに高速な起動と予測可能な挙動を実現する
5. JIT & AOTのメリット比較
JITのメリット
• 適応的最適化: 実際のユーザーデータをもとに最適化
• プロファイルベースの最適化:ホットパスを重点的に最適化
• プラットフォーム非依存: JavaやKotlin、Scalaのように「書いたらどこでも動く」スタイルに適合
• 動的言語対応: 型が実行時にしか決まらないJavaScriptのような言語に最適
AOTのメリット
• 高速起動: 実行時コンパイルが不要
• メモリフットプリントが小さい: JITエンジンが不要
• デプロイが簡単: 完全コンパイル済みのバイナリを配布
• セキュリティ面のメリット: ランタイムコンパイラがない分、攻撃対象が少ない
使い分けを知ろう
現実的にどちらを選ぶべきか、下記の図の通りまとめてみました。
ソフトウェアエンジニアとして、両方のモデルを理解し活用することが重要です。コンパイルやデプロイの背後で何が起こるのかを理解することで、スケーラブルなバックエンド、高速なアプリ、クラウドコスト最適化など、より良い技術的判断が可能になります。JITとAOTのどちらかが常に優れているということではなく、目的に応じた使い分けが重要です。
エンジニアとしてコンパイル戦略の理解を深めることは、スケーラブルなシステム、高速なアプリケーション、運用コストの最適化といった判断をより合理的にしてくれます。
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