ソフトウェア開発における「7つの設計原理」Part2
前回の記事では、ソフトウェア開発における「7つの設計原理」のうち、単純原理、同型原理、対称原理の3つについて解説しました。これらの原理は、コードのシンプルさ、一貫性、対称性に関わる重要な観点でした。本記事では、残りの4つの設計原理について詳しく説明します。
この記事の目次
4. 階層原理(Hierarchy Principle)
階層にこだわる
階層原理は、ソフトウェアの構造において階層的な関係性を明確にすることを重視します。物事の前後関係や本末関係を意識し、整理された階層構造を構築することで、システムの理解と保守が容易になります。この原理に従うことで、同じ種類の処理が異なる階層間で混在しないようにすることができます。
階層構造は読みやすい
階層構造を持つコードは、プログラム全体を抽象化して理解しやすくなります。上位層から順に下位層へと詳細化されるため、コードを読む人は必要に応じて階層を下り、詳細を把握することができます。このように整理されたコードは、プログラマの意図や仕様を伝えやすくし、バグの発生を減らします。
抽象階層構造のあるコードを書く
コードを書く際には、各部分がどの抽象レベルに属するかを意識し、階層構造を構築することが重要です。1つの階層は同じ抽象レベルの要素で構成されるべきであり、上位層から下位層を見たときに、それが外部から見ているかのように理解できる構造が望ましいです。
# 悪い例:階層が曖昧なコード def process_data(): data = load_data() validate_data(data) result = process_complex_logic(data) if not data_is_valid(result): handle_error(result) save_data(result) # 良い例:明確な階層構造を持つコード def process_data(): data = load_and_validate_data() result = perform_processing(data) save_results(result) def load_and_validate_data(): data = load_data() validate_data(data) return data def perform_processing(data): result = process_complex_logic(data) if not data_is_valid(result): handle_error(result) return result
この例では、階層構造を意識して関数を分割することで、コードの見通しが良くなり、保守性も向上しています。
5. 線形原理(Linearity Principle)
処理の流れは直線にこだわる
線形原理は、処理の流れが直線的であることを重視します。これは、複雑な分岐や状態管理を避け、シンプルで直線的な処理の流れを維持することを意味します。スイッチや状態変数を多用して制御を複雑化すると、コードがわかりにくくなり、バグの温床になります。
一直線の処理は読みやすい
処理の流れがシンプルで一直線になっていると、コードは読みやすく、理解しやすくなります。複雑な条件文やループ、GOTO文のような処理のジャンプは、障害を引き起こす要因となります。階層の上位から下位へと一方向に流れる処理を意識し、一筆書きできるようなシーケンスにすることで、可読性が大幅に向上します。
分岐の少ないコードを書く
コードの分岐を少なくし、直線的に読めるようにすることが重要です。特殊な処理を主処理に混在させず、処理の一貫性やルートを意識してコードを書くことが求められます。保守が進む中で複雑になりすぎた部分については、再構築を検討することも大切です。
# 悪い例:分岐が多く、複雑な処理 def handle_request(request): if request.type == 'A': process_type_a(request) elif request.type == 'B': process_type_b(request) else: if request.is_urgent(): process_urgent_request(request) else: log_request(request) # 良い例:分岐を減らし、直線的な処理 def handle_request(request): if request.is_urgent(): process_urgent_request(request) else: process_standard_request(request) def process_standard_request(request): if request.type == 'A': process_type_a(request) elif request.type == 'B': process_type_b(request) else: log_request(request)
この例では、処理の流れを整理し、直線的に保つことで、コードの可読性と保守性が向上しています。
6. 明証原理(Clarity Principle)
ロジックの明証性にこだわる
明証原理は、コードのロジックが明確であることを重視します。明証性とは、明確に証明できることを意味し、コードが一見して正しいことが理解できるようにすることを目指します。もしコードだけで明確に表現できない場合は、コメントやドキュメント、図などを用いて補完します。
不確実性を取り除く
コードは何度も読み返されるため、読みやすく、理解しやすい状態に保つことが重要です。一見して明らかであると断言できるコードを心がけることで、直感的でわかりやすいコードを書くことができます。また、トリッキーなコードや不確実な部分を排除し、保守する人にとっても理解しやすい状態にすることが求められます。
ロジックが明瞭なコードを書く
ロジックが明瞭なコードを書くことを意識し、コードを読む人が疑問に思うような部分は排除するか、適切にコメントを追加します。また、明確で誰でも同じ理解をできる用語や変数名を使用するように心がけます。
# 悪い例:不明瞭なロジックと命名 def proc(data): if data: do_stuff(data) else: return None # 良い例:明確なロジックと命名 def process_data(data): if data is not None: perform_operations(data) else: return None
この例では、関数名や変数名を明確にし、ロジックを直感的に理解できるようにしています。
7. 安全原理(Safety Principle)
安全性にこだわる
安全原理は、コードが安全に動作することを最優先に考慮します。必然性のない部分や曖昧な部分において、安全側に倒した設計を行い、プログラミングすることを推奨します。たとえ起こり得ないと思われる条件でも、あえてそれを考慮してコードを書くことで、サービスの安定性を確保します。
大事故への発展を防ぐ
ソフトウェアはハードウェアと同様、安全性が求められます。例えば、ハードウェアではストーブが転倒した際に自動的に消火する機能があります。同じように、ソフトウェアも様々な状況を想定し、それぞれに対して安全な動作をするように設計します。これにより、サービスの継続性やデータ破壊の防止が図られます。
安全サイドにコードを書く
曖昧な部分や必然性のない部分では、安全側に設計することを徹底します。すべての動作を洗い出し、それぞれが安全に動作するように配慮します。ありえないと思われる条件でも、それを考慮したコードを書くことで、ソフトウェアの安全性を高めることができます。また、人によるばらつきを防ぐために、事前に規約を定めることも重要です。
# 悪い例:安全性を考慮しないコード def divide(a, b): return a / b # 良い例:安全性を考慮したコード def divide(a, b): if b == 0: raise ValueError("Division by zero is undefined.") return a / b
この例では、0での除算を考慮してエラーチェックを追加し、安全な動作を保証しています。
まとめ
本記事では、「7つの設計原理」のうち、階層原理、線形原理、明証原理、安全原理の4つを紹介しました。これらの原理は、コードの構造、処理の流れ、ロジックの明確さ、安全性に関わる重要な要素です。これらの設計原理を実践することで、障害を未然に防ぎ、ソフトウェアの信頼性を向上させることができます。
前回のパート1で紹介した設計原理と合わせて、「7つの設計原理」を総合的に理解し、日々の開発業務に取り入れることで、より高品質なコードを作成し続けていくことができるでしょう。これらの原理を意識することで、コードレビューの観点も明確になり、チーム全体で統一された基準を持つことが可能となります。
カテゴリー: