使える! 情シス三段用語辞典72「マルチクラウド」

常に新しい用語が生まれてくる情報システム部門は、全ての用語を正しく理解するのも一苦労。ましてや他人に伝えるとなると更に難しくなります。ジョーシスでは数々のIT用語を三段階で説明します。

一段目 ITの知識がある人向けの説明
二段目 ITが苦手な経営者に理解してもらえる説明
三段目 小学生にもわかる説明

取り上げる用語を“知らない”と思った人は、小学生にもわかる説明から読んでみると、理解が深まるかもしれません!?

一段目 ITの知識がある人向け 「マルチクラウド」の意味

マルチクラウドは、複数の事業者の提供するクラウドサービスを組み合わせて利用する、クラウド利用モデルのことである。先日もIBMが4兆円でレッドハット社を買収したのも、このマルチクラウドに大いに関連する。

このモデルでは、自社の業務システムやストレージなど、それぞれの要件や特性に合わせ、最適なクラウドサービスを選んで、「いいとこ取り」した利用ができる。最大のメリットは、サービスを適正に選ぶことで業務フローの効率化が図れ、コスト削減が可能となることだ。インターネット上でやりとりするデータ量が増えるのでネットワークの負荷に注意が必要だが、クラウドサービス導入のハードルも比較的低いといえる。

また、企業のクラウドへの移行は余地を大きく残しているが、この移行を阻害する要因の一つにシステムがクラウドに「ロックイン」されることを企業が恐れるからとも言われている。マルチクラウドを実現するには複数のクラウドに対応したソフトの提供が鍵となるが、IBMが買収したレッドハットのように世界のトップ4クラウド事業者であるAWSやMicrosoft、Google、アリババなどと提携関係にあれば、様々なクラウドでの稼働が保証され、“適材適所”なクラウド利用を可能にする。このようにマルチクラウドはロックインの回避にもつながり、システムを異なるクラウド上に分散配置すればBCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)対策としても利用できる。

ただし、デメリットもある。複数のサービスを合わせて使用することから、全体の管理負荷が高くなることが課題だ。具体的には、サービスごとに運用管理APIが異なる場合、バラバラに管理するのは煩雑でインシデントにつながりやすくなってしまう。また、サービスごとのセキュリティレベルが異なれば、セキュリティ基盤を別に用意するなどで一貫したセキュリティを確保しなければならない。

マルチクラウドの運用管理を統一または簡易化するための対策としては、以下が挙げられる。

・他クラウドと共通で使えるAPIを有しているクラウドサービスを使用する
・複数クラウドにまたがり包括的に運用を行える基盤を作る/採用する

他にも、マルチクラウド環境で起きたトラブルの対応には、各クラウドに関して知識のあるハイレベル技術者がいないと難しいこともある。しかし現在は、複数クラウドの一括管理や各クラウド間でのデータ連携を行うなど、マルチクラウド運用をまるごと請け負うマルチクラウドサービスを提供する事業者も増えている。そういったセットサービスが充実していくことも手伝って、今後はますます普及していくものとみられる。

 

二段目 ITが苦手な経営者向け

社長は、情報システム部門の上げてきた見積もりを見て思わずつぶやいた。

社長:もうサーバーの更新か。設備費もバカにならないな・・・。

それを聞きつけた、情報システム部門の円倉さん。

円倉さん:社長、それならウチもそろそろクラウド化しちゃいますか?

社長:クラウド化?なんか聞いたことはあるけど、実際どうすることなんだ?

円倉さん:クラウド化っていうのはですね。IBMやMicrosoftとかの事業者がデータセンターに持っているサーバーを、インターネット経由で借りて使えるサービスがあるんですよ。実際のサーバーの管理は事業者がしてくれて、ウチは使わせてもらうだけなんです。

社長:要はウチでサーバーを持たなくていいってことか。それは良さそうだな。

円倉さん:そうなんです。あと今は、マルチクラウドっていって、いろんなクラウドサービスを組み合わせて使うのが主流になりつつあるんですよ。

社長:マル・・・マルチクラウド?

円倉さん:クラウドって、SaaSだけでなく、IaaSとかPaaSとかいろんな会社がサービスを提供していて、ソフトウェアレベルで使えるクラウドサービスもあるんですよ。例えば、ウチの社内システムでも、労務システムは市販のパッケージをクラウドで利用することもできるんです。ウチはインターネット経由でソフトを使うだけで、サーバーやソフトそのものの管理は事業者がやってくれるんです。

社長:なるほど。それも良いかもしれないけど、市販のパッケージだとウチ独自の使い方に合うかなあ。

円倉さん:いろいろなサービスがありますから、合うやつを選べばいいんです。カスタマイズできるサービスもあるし、他のサービスと組み合わせて足りないところを補ったりもできますからね。マルチクラウドって、そうやって環境に合わせて選べたり組み合わせたりして一番合う感じに作れるのが良いんですよ。

社長:なるほどな!でも、そうすると結局コストも高くついたりするんだろうな。

円倉さん:まあ価格帯もいろいろですから、それも考慮して選ばないといけませんね。管理コストも、今度はそのクラウドサービス同士をまとめるための管理が必要になりますし。でも、そんな管理をもしやすくしているクラウドサービスもあるし、クラウド化するメリットのほうが大きいと思いますよ。

社長:よし、ウチも検討してみるか!さっそくそのクラウドのメーカーに見積もりを取ってくれ!

円倉さん:社長、メーカー見積もりって、ちょっと待ってください。まずは、ウチのシステムの要件を整理してどの部分をクラウド化するか、検討してからじゃないと・・・。物理サーバーだけクラウド化するのもいいし、OSレベルの仮想化環境からクラウド移行してもいい。それからネットワーク負荷の検討と、あとはストレージ容量・・・。

社長:わかったわかった。単純にサーバーを買うということではなく、いろいろと検討が必要なんだな。じゃ、まずは社内で検討してみよう。

 

三段目 小学生向け

正太くんは、家族でラーメン屋さんに来ていた。正太くんのお気に入りのラーメン屋だ。

「おいしいなあ。もし世界が終わるとしたら、ぼくは最後にここのラーメンが食べたいってくらいだよ。」

「そうか、そんなに正太はここのラーメンが好きか。」

お父さんはにこにことうなずく。正太くんはつづけた。

「でも実は、ギョウザはここより駅前のギョウザ屋さんの味のほうが好きなんだ。で、チャーハンなら向かいの店が一番。だからもし世界が終わるとしたら、ここのラーメンと、駅前のギョウザと、向かいのチャーハンが食べたい。」

「なるほど。マルチクラウド飯だな。」

「『マルチクラウドめし』って?」

お父さんは“IT”のお仕事をやっていて、ときどき、いきなりむずかしいことや変なことを言う。

「要は、いろんなお店のメニューの好きなものだけ食べるってことだろ。最近は、会社でも同じようなことをしているんだよ。」

「会社がごはんをたべるの?」

きょとんとする正太。お父さんは言った。

「もちろん、ごはんそのものじゃないよ。会社は、他の会社とお仕事をやりとりしているんだ。メニューを選ぶみたいに、どの会社のどのお仕事にするかを選ぶんだね。ただ、同じ仕事でも、おねがいする会社によってねだんがちがったり、やってくれる内容がちがったりする。正太ならどうやって選ぶかな。」

「ごはんなら一番おいしそうなメニューがいいけど。ねだんがちがうなら、安いほうがいいんじゃないの。」

「安さは大切だよね。そして、こっちの都合の良いようにしてくれる会社を選ぶよね。でもお仕事にもいろいろなお仕事があって、こっちの部分はこの会社が上手にやってくれるけど、あっちの部分は実はその会社がとくいじゃないってことがあるんだ。」

「ラーメンがおいしい店と、ギョウザがおいしい店があるように?」

「そうそう。そうなると、“ラーメン仕事”はラーメンのとくいな会社に、“ギョウザ仕事”ならギョウザのとくいな会社にしたいだろ。それをITの世界でやると、『マルチクラウド』っていうんだ。いろんな会社のお仕事を組み合わせて使うことをいうんだよ。」

「ふーん。いいやり方だと思うな。」

「ただ、いろんなお店に行ってそれぞれ買ってくるのはめんどうだよな。おいしく食べるためには温めなおしたりもしなくちゃいけないし。いいやり方だけど、そういう手間はかかるんだ。」

「そうだね、ラーメン屋のおじさんがギョウザ買ってきていっしょに出してくれると楽だけどね。」

「実は、ITのマルチクラウドにはそういうサービスもあるんだ。ひとつの会社がまとめて買ってきてくれるようなね。」

いつのまにかラーメン屋のおじさんがとなりにいて、笑いながら口をはさんできた。

「うちも正太のためにそんなサービス、やってみるかなあ。『ハイ、駅前のギョウザです!』なんつってね~。」

正太とお父さんは首をすくめて、またラーメンに集中することにした。

 

 

さて、皆様のご理解は深まったでしょうか?

 

【執筆:星野 美緒】

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