INSIGHT SUMMARY
- 安心の前提は「要件が変わらないこと」:金額と納期が先に決まるウォーターフォールの安心は、作るものが途中で変わらない場合にしか成り立たない。作りながら正解を探す新規事業ではその前提が崩れやすい。
- AIで速くなったのは「作る」工程だけ:簡単な画面ならAIで数日のうちに触れる形になる。その一方で、何を作るかを決めること、契約、仕様変更の見積もりにかかる時間は変わっておらず遅れの大半はこちらから生まれるようになった。
- 外注先は「一緒に進められるか」で選ぶ:いくらで何を作ってくれるかに加えて、動くものをどのくらいの間隔で見せてくれるか、仕様が変わったときに契約をやり直さずに進められるか、続けるかやめるかをどこで判断できるかを確かめたい。
稟議は通った。予算も取った。なのに一向に開発が始まらない。
要件を詰める打ち合わせが続き、契約書は法務チェックから戻ってこない。本当は早く動くものを作って確かめたいのに。
この足止めの正体はウォーターフォールという進め方にあります。要件を固め、見積もりを取り、金額と納期を決めてから発注する。稟議を通しやすく発注した後はベンダーに任せられるため、長いあいだシステム開発の正しい発注手法とされてきました。
新規事業の開発を外部に依頼するときも多くの担当者がこの進め方を選びます。
ただAIで作る速度が大きく上がった今、この進め方が新規事業の足を引っ張る場面が増えています。開発そのものは速く終わるのに契約や仕様変更の手続きで何週間も止まってしまうのです。
そもそもウォーターフォール開発 / アジャイル開発とは?
※2つの違いをすでにご存知の方は、次の「ウォーターフォールが長く正解だった理由」まで読み飛ばしてください。
システム開発の進め方には、大きく分けてウォーターフォール開発とアジャイル開発の2つがあります。
ウォーターフォール開発は、最初に要件をすべて決め、設計、開発、テストと順番に進める方法です。前の工程には基本的に戻りません。
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アジャイル開発は、1〜2週間ほどの短い単位で「作って、確かめる」を繰り返す方法です。動くものを見ながら、次に何を作るかを決めていきます。
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ウォーターフォールが長く正解だった理由
ウォーターフォール開発は多くの場合、請負契約とセットで使われます。請負は「決められたものを完成させること」を約束する契約です。完成したものが契約の内容と違えば開発会社が直す責任を負います。
ウォーターフォール開発が長く選ばれてきたのにははっきりした理由があります。
- 作るもの、金額、納期が発注の前に決まる
- 金額が確定しているので、稟議を通しやすい
- 発注した後は完成まで開発会社に任せられる
- 仕様どおりにできていなければ開発会社に直してもらえる
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発注側にとって「いくらで、いつできるか」が先に決まるのは大きな安心です。ただしそれは「要件が途中で変わらない」という前提の上に成り立っていました。
新規事業では、この前提がもともと崩れやすいのです。
なぜ今、このずれが目立つのか
新規事業では作ったものをお客様に見せ、その反応を見て次に作るものを決めていきます。
以前は開発にいちばん時間がかかっていたので、手続きにかかる時間はそれほど気になりませんでした。今はAIコーディングエージェントを使えば、画面に項目を足す程度の変更なら数日で終わります。それでも見積もりと契約変更にかかる時間は短くなりません。
この流れは何度も繰り返されます。変更を加えるたびに手続きで数週間止まるなら、開発が速くなってもお客様の反応を確かめられる回数はほとんど増えません。
手続きが遅くなったわけではなく、開発が速くなったことで要件を固めてから契約する進め方と新規事業とのずれが浮き彫りになりました。
AI時代の新規事業開発の進め方
ではAIで作る速度が上がった今、新規事業のシステム開発はどう進めればよいのでしょうか。基本になるのは動くものを短い間隔で作って確かめるアジャイル開発の手法です。
ただしアジャイルにも弱点はあります。総額が最初に決まらない、どこで終わるのかが見えにくい、発注側も判断に関わる手間がかかる、といった点です。こうした弱点への対策も含めて4つのポイントを紹介します。
1. 予算は「何を作るか」ではなく「期間とチーム」で取る
アジャイルの契約は多くの場合、準委任という形で結びます。準委任は「完成」ではなく「決めた期間、決めた体制で開発を進めること」を約束する契約です。
そのため予算も「何を作るか」ではなく「どの期間にどのチームで進めるか」で確保します。たとえば「3か月、このチームで」と決めれば、月ごとの費用は先に決まります。
2. 区切りごとに「何を確かめるか」と「何をやらないか」を決める
期間で予算を取ると「結局どこで終わるのか」が見えにくくなります。ゴールを決めずに進めれば作るものはいくらでも膨らみます。
そこで最初に「この期間で何を確かめるか」を決めておきます。たとえば「1か月目でお客様が申し込みまでたどり着けるかを確かめる」といった形です。区切りごとに結果を見て続けるか、方向を変えるか、やめるかを判断します。
あわせて決めておきたいのが「何をやらないか」です。
「あの機能もほしい」「この画面もあったほうがいい」と、やりたいことを並べていくと、開発する内容はひたすら膨らみます。AIで作るのが速くなった今はなおさらです。
ただ機能が増えるほど確かめたいことがぼやけます。お客様の反応が悪かったときにどこが原因なのかもわかりにくくなります。「この期間では決済機能は作らない」「管理画面は最低限にする」のように、やらないことを先に言葉にしておきます。
そうすれば役員や他部署から「この機能も入れられないか」と言われたときに「今回の期間では確かめることを絞っています」と説明できます。
3. 手続きは最初にまとめて済ませる
この記事で見てきたとおりAI時代の開発で遅れを生むのは手続きです。だからこそ手続きを何度も挟まずに済む形を最初に作っておきます。
- 契約:仕様が変わるたびに契約し直さなくてよいよう、変更を前提にした契約(準委任など)を結ぶ
- 社内の承認:稟議の段階で「この予算と期間の範囲なら、何を作るかの変更は担当者の判断で進めてよい」という了解を取っておく
- 法務や情報システム部門の確認:開発が始まってから一つずつ回すのではなく、最初に必要な確認をまとめて済ませる
4. 判断は開発会社に任せず自分で持つ
アジャイル開発では開発を依頼する担当者自身にも「プロダクトオーナー」としての関わりが求められます。何を優先して作るかを決め、出来上がったものを見て判断する役割です。
これは手間に見えますが、新規事業の担当者にとっては本来の仕事です。何を作れば事業になるかを決められるのは、事業を一番よく知っている担当者自身だけです。
これからの外注先の選び方
新規事業の開発を外注するとき「いくらで何を作ってくれるか」はもちろん大事です。そこにもう一つ「一緒にチームを組み、動くものを見ながら進められるか」を加えてみてください。
打ち合わせでは、次のことを聞いてみるとわかりやすくなります。
- どのくらいの間隔で、動くものを見せてもらえるか
- 途中で仕様や優先順位が変わったとき、どう対応するか。そのたびに契約のやり直しが必要か
- 続けるかやめるかを、どのタイミングで判断できるか
- 開発する人と相談に乗る人が同じチームにいるか
要件が最初から固まっている場合、これまでどおりウォーターフォールが合うこともあります。迷ったら「この開発は作りながら決める必要があるか」を考えるとどちらを選べばよいかが見えてきます。
まとめ
ウォーターフォール開発は要件が途中で変わらない開発では今も正解です。
ただ新規事業は作りながら正解を探していくものです。最初に作るものをすべて決めてから進めるウォーターフォールとはそもそも前提が合っていません。AIで作る工程が速くなった今、遅れの多くは開発ではなく、契約と進め方から生まれています。
HumAInでは発注側と開発側がひとつのチームになって進める、伴走型のアジャイル開発を支援しています。
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