💡INSIGHT SUMMARY
- 「爆速」の正体は「着手の早さ」: 仕様確定を待ってから着手する従来の手順では、着手待ちの時間が制作時間より長くなる。不確実な段階からあえて着手することで、検証開始のタイミングを劇的に早められる。
- プロトタイプは「制作物」ではなく、決断を促す「判断材料」: 抽象的な言葉や仕様書だけでは人は判断を保留する。実物に触れさせることで「他人事」から「自分事」へ意識を変え、具体的に検討できる状態を作り出すことが目的。
- プロトタイプの真価は「次のアクション」を生むこと: 完成度を追求すること自体は目的ではない。見せた相手から具体的な要望が出たり、次の議論が決まったりと、判断が前に進むことで初めて「判断材料」として機能したと言える。
新規事業のプロトタイプが、なかなか出てこない。
そう聞くと「制作会社の作業が遅いのだろう」と考えがちです。しかし実際には、その手前の段階で時間を失っているケースが少なくありません。
仕様を固める → 見積もる → 稟議を通す → ようやく制作する。
この順番を踏んでいる場合、着手までの待ち時間が制作期間そのものより長くなることが珍しくありません。そうなると、制作会社の作業速度を上げても、検証を始められるタイミングは大きくは変わりません。
本メディアSTUDIO INSIGHTを運営するHumAInは、新規事業の立ち上げから運営までを、外からの助言ではなく当事者として担うチームです。クライアントとの共創だけでなく、自社でも事業を立ち上げ、その営業まで自分たちで行っています。
私たちはラフなアイデアの段階からプロトタイプを作り、実物を見ながら仕様や仮説を固めていきます。ここでいう「爆速」とは、数時間で完成品に近いものを作ることではありません。着手までの待ち時間を短くし、判断に必要な材料を早く手に入れることです。
この記事では、この進め方で商談や社内の議論が実際にどう変わるのかを、自社事業の営業現場をもとに紹介します。
新規事業のプロトタイプ制作に時間がかかる本当の理由
プロトタイプを作ろうとすると、次のような順番を踏むケースがあります。
【仕様書を起点にした進め方】
仕様を固める
↓ (打ち合わせを重ねる)
要件を確定させる
↓
見積もりを取る
↓
社内稟議を通す
↓
ようやく着手
一つひとつの工程に無駄はありません。責任範囲を明確にするための、合理的な手続きです。問題なのは、この進め方そのものではなく、不確実性が高い段階の新規事業にも同じ進め方を当てはめてしまうことです。
作るものが決まっている案件なら、仕様を固めてから着手するのは正しい。しかし新規事業では、その前提が成り立ちません。そもそも仕様を固めきれないから検証したい。にもかかわらず、仕様が固まるまで作らない。この矛盾によって、検証の開始そのものが後ろ倒しになります。
着手するまでに数週間から数か月かかっていれば、制作そのものを速くしても、検証を始めるタイミングは大きく変わりません。 見直すべきは「制作速度」より先に、いつ制作を始められる状態になるかです。
しかも、時間をかけて確定させた仕様は、実物が出てきた瞬間にひっくり返ることが珍しくありません。「思っていたのと違う」という言葉は、最もコストが高いタイミングで発せられます。
「爆速」の正体は、制作速度ではなく着手の早さ
HumAInがプロトタイプ制作で取っているのは、逆の順番です。
私たちは、完璧な仕様書ができるまでデザインに着手しない、お行儀の良い受託会社ではありません。ラフなアイデアの段階から、触れる画面を組み上げていきます。
ただし、これは仕様書が不要という意味ではありません。最初に仕様を確定させるのではなく、プロトタイプで仮説を検証しながら仕様の精度を上げていくという、順番の話です。不確実性が高い新規事業ほど、この順番のほうが仮説と実物のズレに早く気づけます。
【プロトタイプを起点にした進め方】
ラフなアイデアを聞く(最短当日)
↓
触れる画面を組み上げる
↓
実物を見て議論
↓
仕様の精度が上がっていく
私たちが「爆速」と言うとき、それは職人的な作業スピードの話ではなく、この順番のことを指しています。速く作ることが目的ではなく、早く判断できる状態にすることが目的です。
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新規事業のプロトタイプとは?
新規事業におけるプロトタイプとは、完成品を作る前に、アイデアや仮説を実物に近い形にして検証するためのものです。紙のラフから、実際に画面遷移するモックアップまで、粒度はさまざまです。
ここで重要なのは、どれだけ完成品に近づけるかではありません。何を判断するために作るのかを、先に決めることです。 検証したい仮説が決まれば、作り込める範囲は自ずと絞られます。ユーザーがサービスを理解できるかを確かめたいなら画面のモックで足りますし、業務フローが回るかを確かめたいなら簡易的な操作デモが要る、といった具合です。逆に目的が曖昧なまま作ると、完成度だけが上がって判断には使えないものができあがります。
この目的から考えると、プロトタイプの用途は開発前の検証だけに限りません。実際にHumAInでは、受注が決まる前の営業提案の場でも、相手専用のプロトタイプを作って持っていきます。
プロダクト検証と営業提案は、目的こそ違います。しかしどちらも、まだ存在しないものについて、誰かに判断してもらわなければ前に進まないという点では同じです。新規事業なら経営陣に「この事業は成立しそうか」を、営業なら顧客に「これは自社に必要か」を判断してもらう必要があります。
この記事では、開発前の検証も、営業提案も、社内の承認も、まとめて「プロトタイプで判断を前に進める場面」として扱います。いずれも完成品を作ることが目的ではなく、相手の判断に必要な部分を具体化することが目的だからです。
その判断材料としてプロトタイプを使うと、実際に何が起きるのか。ここからは自社事業「安診Web」での実践を紹介し、そこで得た原則を最後に社内の新規事業へ引き戻します。
プロトタイプは「制作物」ではなく「判断材料」
企画書とワイヤーフレームだけで「この事業に投資していいか」を判断するのは、決裁者にとって難しい作業です。
判断材料が抽象的だと、人は判断を保留します。「もう少し詰めてから」「他部署の意見も聞いて」という言葉は、慎重さの表明であると同時に、まだ具体的に判断できる状態ではないというサインでもあります。
商談の場でも同じです。提案相手がその分野の専門家でなければ、言葉だけで価値を伝えるには限界があります。
だからプロトタイプは、完成品の前段階ではありません。相手が判断できる状態をつくるための材料です。爆速はそのための手段であって、目的ではありません。
私たちがそれを実感したのは、自社事業の営業現場でした。
安診Webで実践した「受注前プロトタイプ」
ここからは、私たちが自社事業として運営している、整骨院・接骨院向けのHP・MEOサービス「安診Web」の営業現場の話をします。
安診Webは、自社メンバーが整骨院を探した際に「ネットの情報だけでは、結局行ってみないと分からない」という課題を感じたことから始まった事業です。患者側の視点で着想しました。
ところが、実際に治療院を回ってみると、見立ては変わっていきました。
現場で聞いた「本当の壁」
治療院を回る中で、「インターネットやパソコンはよく分からない」という声を何度も聞きました。
技術的な理解の問題ではありません。何が良くて何が悪いのかを判断するための材料が、十分に手元にないのです。「SEO対策をします」と言われても、それで何が起きるのか想像がつかない。「デザインを新しくしましょう」と言われても、比較する基準がない。先生方は施術のプロであって、Web制作の目利きではないのですから、当然のことです。
私たちが最初に想定していた「Web上の情報が見づらい」という問題の手前に、Webに手を入れると自分の院がどう変わるのかを、具体的に判断できる材料がないという壁がありました。
「おっ」と声が出るのは、ファーストビュー
実際にプロトタイプを見せたとき、最も反応が返ってくるのはHPのファーストビューです。開いた瞬間に「おっ」と声が出て、「これめっちゃいいですね」と前のめりになる。
デザインの良し悪しは、言葉だけでは伝えにくいものです。それが一枚で伝わります。
予想外だったのは「LINE予約ボタン」
提案段階なので、押してもトーク画面が開くだけで、まだ予約にはつながっていないボタンです。それにもかかわらず、反応が非常に良い。
なぜここまで反応するのか。確かなことは分かりません。ただ私たちには、先生が反応していたのは機能そのものというより、「自分の院の患者さんが、こうやって予約している」という光景が見えたことのように思えました。
というのも、同じ機能を機能一覧として口頭で説明していたときには、この反応が一度も出なかったからです。説明するか、使われている画面として見せるか。その差だけで反応が変わりました。
私たちはこの経験から、プロトタイプは機能を見せるだけではなく、その機能が使われる場面まで想像してもらうためのものだと考えています。
先生が手に入れているのは「変わった後の自分の院」
反応を並べてみると、共通しているものがあります。
先生方が反応していたのは、画面の出来栄えだけではありません。そこに「自分の院も、こんなに変わるのか」という未来が具体的に見えたことも大きかったと考えています。
それまでは、Webに何ができるのかも、自分の院がどう変わるのかも具体的には想像できない状態でした。それが、目の前の一枚によって「変わった後の自分の院」が見えている状態になる。抽象が具体的になっただけではなく、他人事が自分事になっている。
もう一つ、意外に効いているのが「自分が何もしなくても、提案ベースでこれだけのものが出てくる」という点です。完成イメージが目の前にあることで、「作るのは大変そうだ」という心理的なハードルが下がっています。
受注への貢献:決定打ではなく「武器」
実際に、このアプローチを経て受注に至ったケースが4件あります。ただし、見せなかった場合との比較をしているわけではないので、受注率の改善を示す数字ではありません。
正直に書くと、「プロトタイプがあったから受注できた」という単純な因果ではありません。 効いているのは、もともと意欲が高い先生に対する最後の後押しとしてです。関心が薄い段階の相手を、これ一つでひっくり返せるわけではない。
それでも武器としては機能しています。他社の制作事例を見せることにも効果はありますが、何もないところに自分の院のHPが立ち上がっているという体験は、事例集では代替できません。
プロトタイプが効果を発揮する3つの条件
ここまでの経験から、私たちがプロトタイプを作る際に意識しているのが、次の3点です。
【プロトタイプが効く3つの条件】
- 相手が自分ごと化できるか
- 言葉だけでは伝えにくい価値か
- 見せた後に、次のアクションが生まれるか
① 相手が自分ごと化できるか
汎用のサンプルや他社事例では、この条件を満たせません。相手の名前が入り、相手の状況が反映されているからこそ、「うちの場合」として見てもらえます。私たちが受注前でも個別に作るのは、この一点のためです。
② 言葉だけでは伝えにくい価値か
デザイン、操作感、画面の空気。これらは説明だけでは届きにくい。逆に、口頭で十分伝わることをわざわざ画面にしても、効果は限定的です。
③ 見せた後に次のアクションが生まれるか
プロトタイプは、見せて終わりでは意味がありません。相手から具体的な要望が出るか、次の打ち合わせが決まるか、社内の誰かに共有されるか。何らかの動きが起きて初めて、判断材料として機能したと言えます。
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安診Webの場合、それは「次回、イメージを作ってきます」という次のアポイントであり、実物を前にした「ここをこうしたい」という要望でした。
逆に、見せても反応が薄いまま終わるなら、見せる相手か、見せた中身のどちらかが合っていません。プロトタイプの出来を疑う前に、「誰の、どの判断のために見せたのか」を確認したほうが早いというのが、私たちの実感です。
社内の新規事業にも応用できる
冒頭で触れたとおり、これは営業提案に限った話ではありません。社内で新規事業を通す場面でも、まだ存在しないものについて判断してもらうという構造は変わらないからです。
「こういう事業です」と説明するのではなく、「実際にこう使われる」という状態まで具体化する。それだけで、議論の対象は抽象論から具体的な判断に移ります。
そして、結論が「進めない」でも構いません。 最も避けるべきは、判断材料が足りないまま検討だけが続くことです。
プロトタイプ制作を外部に依頼するときの確認事項
プロトタイプを外部に依頼する際、「何日で作れますか」だけを確認するのでは不十分です。ここまで見てきたとおり、重要なのは仕様が固まっていない段階から着手できるか、そして実物を見た後にどれだけ早く直せるかです。
- そのプロトタイプで何を検証するのかが、依頼前に定義されているか
- 仕様が固まっていない段階でも着手してもらえるか
- どこまでの精度が必要か(見た目か、動線か、実際の挙動か)を握れているか
- 実物を見た後に出てくる要望を、短期間で反映できる体制か
- 検証で得た結果をもとに、次の開発判断まで支援してもらえるか
まとめ
新規事業のプロトタイプが出てこない原因は、制作スピードよりも「仕様が固まるまで着手しない」という順番にあります。
「爆速」の正体は着手の早さです。仕様確定を待たずに始めるから、判断材料が早く手に入ります。
プロトタイプは制作物ではなく判断材料です。抽象的な説明が具体的になり、他人事が自分事に変わったときに、判断が前に進みます。
見せて終わりではありません。相手から要望が出る、次のアポイントが決まるなど、次のアクションが生まれて初めて判断材料として機能します。
自社のケースで、まず何を「見える形」にすれば判断が進むのか。そのご相談は、HumAInへお気軽にお問い合わせください。