医療人材総合サービスや健康経営支援を手がける株式会社エムステージグループが、2026年10月19日、医療従事者・職員の離職防止と組織定着を支援する新プロジェクト「アシタバプロジェクト」を開始しました。「採用」「予防」「対処」の3フェーズで、採用時のミスマッチ防止から休復職支援までを一気通貫で支援するという内容です。採用支援を主力としてきた企業が、あえて「採用の先」に事業の軸を広げた点に、今回の発表の読みどころがあります。

何が発表されたか:「採用・予防・対処」の3フェーズで定着を支援

発表によると、アシタバプロジェクトは独自の組織診断によって医療機関の課題を把握し、状況に応じた施策を3つのフェーズで提供する伴走型のソリューションです。プレスリリースでは、プロジェクトの全体像を次のように説明しています。

本プロジェクトは、客観的な診断データをもとに「採用」「予防」「対処」の各フェーズで医療現場の離職防止と組織定着を支援するサービスです。採用時のミスマッチ防止から、メンタル不調の防止・早期検知、休復職時のスムーズな復職支援まで一気通貫でカバーし、医療従事者・職員が安心して働き続けられる環境づくりによって、持続可能な医療経営を実現します。

各フェーズでは、それぞれ想定する「問題」と「アプローチ」が整理されています。

①採用:定着を見据えた採用支援

自院の風土や適性とのミスマッチ採用が早期離職を生む、という問題に対応するフェーズです。同グループのネットワークと知見を活かし、採用計画から入職まで、さらに入職後のフォローアップまで一貫して伴走するとしています。採用を「入職した時点」ではなく「定着した時点」をゴールに設計し直している点が特徴です。

②予防:メンタルヘルスケアと健全な職場環境づくり

「現場の本音が見えないまま、辞めない環境づくりが形骸化する」という問題を掲げ、産業医・産業保健師によるサポートを通じて、過重労働や人間関係など離職につながる問題を早期に可視化するとしています。あわせて、パワハラ・マタハラ防止を目的とした「ラインケア研修」や、不規則なシフト勤務に対応した「セルフケア研修」など、医療機関向けに特化した研修も用意されています。

③対処:休職・復職支援プログラムと再休職防止

現場任せの休復職対応が負荷を高め、再休職や離職の悪循環を生むという問題に対し、産業保健の知見に基づく職場復帰支援プログラムと再休職防止策を提供します。休職期間中の定期面談、段階的な復帰プランの策定、復職後の業務負荷の調整まで専門スタッフが伴走し、属人化しがちな休復職フローを標準化することで、管理職や現場の対応負担も軽くするとしています。

アシタバプロジェクトの「採用・予防・対処」3フェーズと定期的な診断の全体像

プレスリリースには、「予防」のソリューションを活用している社会医療法人報恩会 長吉総合病院(大阪市)の声も掲載されています。産業医の安全衛生委員会への参加や、産業保健業務管理クラウド「Sanpo360」を活用した衛生講話、独自の職場巡視の確立などに取り組んでいるといいます。同院の総務課長は、取り組みの効果について次のように述べています。

さらに、適切な研修によりメンタル不調者の復帰がスムーズになったことに加え、休職前の早期面談によって休職そのものを防止する効果も表れています。

なお、具体的な離職率の変化といった定量的な成果は、今回のプレスリリースでは示されていません。

なぜその選択をしたのか:紹介手数料への声を認めたうえで「定着」を軸に据える

今回の発表で目を引くのは、プロジェクトの背景説明の中で、同社自身が医療人材紹介をめぐる業界の声に触れている点です。

医療業界内でも「高額な紹介手数料が医療機関の経営を著しく圧迫しているのでは」という声があり、持続可能な経営に向けた本質的な構造改革が強く求められています。

医療人材の紹介を含む医療人材総合サービスは、同グループの中核的な事業領域のひとつです。その当事者が「紹介手数料が医療機関の負担になっているのでは」という声を、プロジェクトの出発点としてリリースに明記しています。そのうえで同社は、問題の捉え方を次のように一段ずらしています。

しかし、本当に向き合うべき問題は「採用コスト」そのものではなく、その先にある「定着する組織づくり」への投資が追いついていないことにあります。

この論理を整理すると、意思決定の構図が見えてきます。採用コストの高さは、裏返せば「採用してもすぐに辞めてしまい、また採用し直す」という繰り返しによって膨らむ面があります。そうであれば、医療機関にとって本当に効くのは採用単価を下げることだけではなく、採用した人が辞めずに働き続けられる状態をつくることです。同社は、紹介手数料への批判に対して手数料の議論で応じるのではなく、「定着」という別の価値軸を提示することで、医療機関との関係を再定義しようとしていると読み解けます。

もうひとつのポイントは、この判断を支える自社アセットの組み合わせです。リリースでは、これまで培ってきた「医療人材事業」と「ウェルビーイング事業」の知見・ソリューションを結集すると説明されています。プロジェクトのサイトが産業保健支援のドメイン上に置かれていることからも、産業医・産業保健師のネットワークを持つウェルビーイング(産業保健)領域が、この新しい取り組みの土台になっていることがうかがえます。

採用支援だけを手がける企業であれば、「採用の先」に踏み込むには新たな機能を一から立ち上げる必要があります。一方で同グループは、採用の入口(人材事業)と、働き続けるための健康管理(産業保健事業)の両方をすでに持っていました。両者をひとつのプロジェクトとしてつなぎ、採用から休復職までを一続きのサービスとして提供することは、既存事業の延長でありながら、紹介ビジネスの外側に価値提供の範囲を広げる判断でもあります。代表コメントでも、この点を次のように位置づけています。

医療人材の採用支援と健康経営の推進という両輪で現場に伴走してきた私たちだからこそ、この課題に挑む責任があります。

収益構造の観点から見ると、紹介手数料は採用が決まった時点で発生する一時的な収益になりやすいのに対し、定着支援は「伴走型」とうたわれている通り、医療機関と継続的に関わるモデルです。料金体系や事業規模の見通しはリリースでは明らかにされていないため断定はできませんが、採用の成否に依存する関係から、組織の状態に継続的に関わる関係へと軸足を広げる狙いがあると考えられます。

読者への示唆

自社の主力事業に対する顧客側の不満や業界の批判は、多くの企業にとって正面から触れにくいテーマです。エムステージグループの今回の判断は、その声を自ら認めたうえで、「顧客が本当に解決したい課題は何か」という問いに立ち返り、主力事業の外側に新たな価値提供の軸を置いた例といえます。

新規事業を検討する際、「自社の既存事業が顧客にとってどんなコストになっているか」を起点に考えると、既存事業と競合しない、むしろ補完し合う事業機会が見えてくることがあります。その際、今回のように社内に散らばる複数の事業アセット(ここでは人材事業と産業保健事業)を一続きの顧客体験としてつなげられるかどうかが、新規事業の説得力を左右するポイントになりそうです。

■株式会社エムステージグループについて

名称  :株式会社エムステージグループ
所在地 :〒141-6005 東京都品川区大崎2-1-1 ThinkPark Tower 5階
代表者 :代表取締役 杉田 雄二
設立  :2019年10月
事業内容:持株会社、グループ全体の経営方針策定及び経営管理(グループとして健康経営支援事業、医療人材総合サービス事業、医療経営支援事業を展開)
URL  :https://www.mstage-group.jp/


株式会社エムステージグループ・2026年10月19日のプレスリリースより引用