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株式会社アクセス
代表取締役社長
小倉 幸二 氏
おぐら・こうじ/島根県出身、18歳で名古屋へ移り、専門学校を卒業後、ホテルでベルボーイ、鋳物工場の勤務を経て、2001年株式会社アクセスへ入社。営業部長、事業部長などを務めたのち2022年に同社代表取締役社長に就任。本メディア「ツムログ愛知」を立ち上げる。



💡INSIGHT SUMMARY

  • 営業課題(想定外): 求人広告が「運用型・標準化」されるにつれ、かつての強みであった「顧客の懐に深く入る泥臭い営業」が薄れ、離職や新規テレアポ苦戦という壁に直面。
  • 変革の摩擦: 「業務が増える」という現場の困惑に対し、トップダウンで推進。顧客の真の魅力を知る「取材現場体験」を通じて、営業メンバーのマインド転換を生み出す。
  • 再現性の獲得: 単なる営業目的の取材に落とさないため、外部パートナー(HumAIn等)を巻き込んで取材の型を定義。100本の検証プロセスを通じて顧客との深いエンゲージメントを取り戻す。

 

 1. 商品が同じなら、届ける「人の体温」で勝負する

愛知県で創業して37年。株式会社アクセスは、Indeedを中心とした求人広告代理店として地場企業を愛し、地場企業に愛されて採用を支援し続けてきた。

しかし、時代の変化とともに求人ビジネスは標準化され、データやアルゴリズムの勝負へと変貌を遂げた。かつてお客様と家族ぐるみでのお付き合いになるほど近い距離で、お客様の課題にも深く入り込むため顧客紹介の多かった同社の「営業スタイル」は、組織の拡大や権限委譲に伴い、少しずつ顧客との距離を生み出してしまうという想定外の課題にぶつかる。

自社の強みを取り戻し、テレアポだけに頼らない新たな顧客接点をつくる——。その突破口として、2026年7月にリリースされたのが、取材・掲載費無料のご当地インタビューメディア『ツムログ愛知』だ。

代表取締役社長の小倉幸二氏は、いかにしてこの自社メディアという決断に至ったのか。ホテルマン、鋳物工場、求人広告営業を経て社長に上り詰めた彼の軌跡と、社内の抵抗を越えて事業を軌道に乗せる意思決定の裏側に迫る。

 2. 社内行事で訓練される、顧客の悩みに寄り添う力

――アクセス様は愛知で長年、地域密着で信頼を重ねてこられました。他社にはない「アクセスらしさ」とはどこにあるのでしょうか?

小倉 氏:一言で言えば、「会社の中に入り込んで、経営者や担当者の悩み事や相談を真摯に受け止めるスタイル」です。

今の時代、社内行事や飲み会をやろうとしても「集まらない」「ハラスメントが心配」と悩む企業様は多いですよね。他社の営業なら「今の時代は仕方ないですよ」と流してしまうかもしれない。でもうちの社員は「時代はこうですけど、うちは社内行事やってますよ。大変だけど絶対やった方がいいです」と、本音で寄り添えるんです。

――なぜアクセス様の社員は、お客様の組織課題にそこまで踏み込めるのでしょうか。

小倉 氏:社内で「祭りごと」と呼んでいる年間4回の大切な行事(花見・バーベキュー・社員旅行・忘年会)があるからです。全社員が何らかの委員会に所属し、準備や根回し、サポートを経験します。

神輿を担ぐ主役だけがお祭りを作っているわけではありません。おにぎりを作る人、警備する人、それぞれの役割がある。目立つのが苦手な社員でも「サポートで貢献する」という体験を通じて、協力してもらうための工夫や感謝を身体で覚えるんです。この泥臭い訓練があるからこそ、お客様と対峙したときに本物の共感(当事者意識)が生まれます。

3. 現場の困惑を「ファン化」に変えた、孤独なトップダウン

――『ツムログ愛知』は顧客との距離を取り戻すための戦略とお聞きしました。しかし、多忙な営業メンバーに「直接売上にならない取材作業」をやらせることに対し、社内からの反発はなかったのでしょうか?

小倉 氏:反発とまではいかずとも、「ただでさえ忙しいのに、これ以上業務を増やすんですか?」という現場の困惑は当然ありました。「本当に売上になるのか」と不安に思う声に対し、これは今のアクセスにとって絶対にやらなければならないことだと、トップダウンで押し進めた孤独の決断でした。

――その社内の空気が変わったターニングポイントはどこにあったのですか?

小倉 氏:一番多く顧客を抱える営業メンバーが、実際に『ツムログ愛知』の取材を行った直後でした。彼が嬉しそうに「付き合いの長いお客様でしたけど、自分は全然お客様のこと知らないなと思いました。普通の求人取材じゃ絶対に聞けない話が聞けて、個人的にあの社長のファンになりました!」と話してくれたんです。

私自身も営業時代に大切にしていた「お客様を好きになり、深く理解する喜び」をメンバーが自分の言葉で語ってくれた。その瞬間、孤独だった私の思いが社内に伝播し始めたと確信しました。

4. 「下心」を捨て、100本叩き込む根気とプロの型

――マネタイズ(掲載費)をあえて無料にし、紹介で繋いでいくモデルですが、プロジェクトのKGI/KPIはどのように設定されているのでしょうか?

小倉 氏:本音を言えば取材から求人の依頼に繋がれば嬉しいですが、そこを目標(KGI)にしてしまうと「営業色」が強くなり、企業の体温を届けるという『ツムログ愛知』本来の価値が薄れてしまいます。

代理店一筋でやってきた私たちが初めて挑む自社メディアだからこそ、まずは愚直に「100本のインタビュー記事を掲載すること」を目標に掲げました。根気強く100本を達成したときの反響や数値を見て、初めて次のステップを判断しようと考えています。

従来の営業手法 『ツムログ愛知』でのアプローチ
テレアポの疲弊: 断られる前提の新規アプローチ リファラル連鎖: 取材先から繋がりのある企業を紹介してもらう
求人のヒアリング: 条件面の聞き取りに終始 ストーリーの抽出: 過去・現在・未来の問いで企業の「体温」が伝わるエピソードを可視化
売上の即時性追求: 目先の広告掲載を追う エンゲージメント投資: まず100本掲載し、ファンと信頼の資産を作る

――営業メンバーが「求人取材」から「企業の想いを引き出すインタビュー」へステップアップするために、どのような仕組みを導入されたのですか?

小倉 氏:自分たちだけで悩むのではなく、インタビューのプロ(WaGaGoToプランニング神宅氏、STUDIO INSIGHTを運営するHumAIn菊池氏)に参画していただきました。

取材依頼書の作り方や事前準備、リアクションなどの「聞く姿勢」、そして過去・現在・未来のタイムラインに沿って問いを重ねる基礎の型(フォーマット)を定義してもらい、現場への同行レクチャーを実施しました。型ができたことでメンバーの「やったことがない取材」への心理的ハードルが下がり、取材を通じてインタビュイーの感情の変化(本音)を自然と深掘りできるようになったと感じています。

5. 明日へのインサイト:意思決定の覚悟が、現場の行動を「作業」から「誇り」に変える

新規事業や新しい取り組みをスタートさせる際、社内の摩擦や現場の戸惑いは避けられない。

しかし、小倉社長が示したのは、安易な成果主義(KPI設定)で営業にハッパをかけることではなく、自らが退路を断って「100本の検証」をやり切る覚悟(トップダウン)だった。そして、プロの知恵(型)を借りて現場のハードルを下げ、顧客の真の魅力に触れる「原体験」を営業に提供したことだ。

小倉 氏:アクセスのスタンスに共感していただけるお客様、パートナーの皆様、社員のみんなと、アクセスらしく「企業の一番側で企業の思いを汲んで形にすることができる組織・集団」でありたいですね。そのための手段としてツムログ愛知を育てていきます。

 

商品やサービスのコモディティ化が進む時代だからこそ、問われるのは「どれだけ自社らしさを磨けるか」。社内の困惑を乗り越え、顧客のファンになる営業を育てるプロセスにこそ、ビジネスの停滞を打ち破る「生きた知恵」が宿っている。