安診Webのインタビュー記事のアイキャッチ

株式会社HumAIn
安診Web事業責任者
平川 歩 氏
(ひらかわ・あゆむ)投手としてプロ野球選手を目指し白鷗大学へ入学するも、度重なる怪我により引退。社会人チームへの内定も辞退し、大学を中退。建設業、飲食業を経て、HumAInへ。整骨院・接骨院向けのHP/MEOサービス安診Webを立ち上げる。

 

 INSIGHT SUMMARY(本記事のポイント)

原体験と情熱:プロの夢を怪我で絶たれた元投手が、「もっと早くこの鍼灸院に出会えていれば」という痛烈な後悔を原動力に、治療院と患者を繋ぐ『安診Web』を立ち上げ。

現場のリアルと泥臭さ:ITリテラシーが追いついていない現場の先生に対し、オンラインや効率化に逃げず、対面営業で「患者ファースト」の熱量を直に伝える戦略を選択。

根拠なき自信と夜も眠れぬ不安:テレアポ3,000件で1件という挫折からチームの「役割分担(補完)」へシフト。根拠なき自信と夜も眠れぬ不安を同時に抱え、黒字化へ挑むリアルな当事者検証の知恵。

 

1. プロ野球の夢を絶たれた右肘の痛みが、事業の「原点」になった

白鷗大学で投手として活躍し、野球で食っていくと決めた18歳の平川氏。大学の単位すらプロ行きを前提とした特別制度に頼るほど、彼の学生生活のすべては野球に捧げられていた。

野球をしている平川さん

当時の様子。145km/hを投げるパワー系ピッチャー。

 

しかし、大学2年の秋、右肘の靭帯損傷(トミー・ジョン手術が必要な状態)という絶望が彼を襲う。手術をすると復帰まで1年半。勝負の時期を棒に振り、プロへの道と社会人野球の内定は一瞬で立ち消えた。大学を中退し、建設業や飲食業を経て、平川氏は株式会社HumAInへ。

 

転機は、引退後に草野球を再開したことだった。

 

安診Web 平川氏:どんなに病院やホームページを調べても治らなかった肩や肘の痛みが、知人に紹介された先生の施術によって、たった3回で治ってしまったんです。その時、感動と同時に強烈な悔しさがこみ上げてきました。「現役時代にこの先生と出会っていれば、僕の人生は変わっていたかもしれない」と。

 

自分自身の過去をやり直すことはできない。けれど、当時の自分のように情報に辿り着けず悩んでいるアスリートや患者と、本当に腕のある先生を繋ぐことはできる。この個人の強烈な「成仏させたい原体験(エゴ)」こそが、2025年10月にスタートした整骨院・接骨院向けHP/MEO支援サービス『安診Web』の原点となった。

 

 2. 「Googleマップって何?」——効率化を捨て、泥臭い対面距離を選んだ理由

自身の体験から治療院支援に乗り出した平川氏だったが、事業を立ち上げて即座に「業界のリアル」という最初の壁にぶつかる。

 

安診Web 平川氏:ターゲットとなる先生方は、僕たちの当たり前が全く通用しない世界にいらっしゃいました。「Googleマップって何ですか?」というレベルの先生方が大半を占めていたんです。

 

世の中のWebサービスの多くは、Web広告でリードを獲得し、オンラインや電話で効率的に商談を回すスタイルが定石だ。しかし、平川氏はその効率化を一切捨てて「対面訪問営業」というアプローチを選択する。

 

安診Web 平川氏:Webや電話のやり取りだけでは、ITに疎い先生方が本当に抱えている課題や思いを引き出すことはできません。また、僕たちがなぜこの事業をやっているのかという熱量も伝わらない。対面でお会いし、僕自身の怪我の体験談と「先生の技術で救われる患者さんを増やしたい」という患者ファーストの思いを直接手渡すからこそ、先生方の心が動き、本音のコミュニケーションが生まれるんです。

 

目先のWeb制作を売るのではなく、先生の矢印を「患者さん」へ向け、結果として先生も幸せになる構造を作る。この泥臭い対面営業こそが『安診Web』が現場で信頼を獲得した最大の武器だった。

 

 3. テレアポ3,000件で1件の挫折から学んだ「チームの補完」

しかし、事業立ち上げの道は平坦ではなかった。0から1を生み出すプロセスにおいて、平川氏は大きな挫折を味わうことになる。新規開拓のために自ら電話口に立ち、テレアポを開始したものの、結果は「3,000件かけてアポイント獲得はわずか1件」。

 

安診Web 平川氏:自分はある程度のことはそつなくこなせると思っていましたが、全く歯が立ちませんでした。精神的にも削られ、自分のスキルの無さを痛感しましたね。

 

そこで平川氏は「自分がすべてをやろうとする」ことを諦め、得意分野を活かしたチームの役割分担へシフトした。メンタルが強く1日何件でも電話をかけられるメンバーにテレアポを任せ、自分自身は「人と対面で向き合い、感情を引き出して熱量を伝える役割」に特化したのだ。

 

安診Web 平川氏:自分の弱みを認め、凹凸の組み合わせで補い合えるチームを作れたことが大きな前進になりました。新規事業の「型を知らない難しさ」に直面する中で、現場ごとにベストを模索し続ける柔軟性が身についたと感じています。

 

 4. 赤字の苦悩と根拠なき自信

現在『安診Web』は20店舗以上の治療院と提携を広げているものの、単月黒字化へ向けたフェーズの渦中にある。

 

支援側として第三者目線で助言するだけではなく、自社の事業としてリスクを背負い、実際に赤字と向き合いながら血を流しているからこそ、平川氏は新規事業に挑むビジネスパーソンへ向け、リアルな言葉を投げかける。

 

安診Web 平川氏:新規事業に100発100中の正解はありません。だからこそ「事業を最後まで信じ切る圧倒的な根拠なき自信」と「上手くいかないかもしれないという絶望的不安」この両方を同じ熱量で抱えて眠れない夜を過ごすことこそが、新規事業の醍醐味だと思っています。

先生方に「信じてついてきてください」と言っている以上、絶対に満足してもらいたいし、撤退という悲しい選択はしたくない。エゴから始まった事業だからこそ、結果を出すことに対してどこまでも真摯であり続けたいです。

 

明日へのインサイト:自らの過去を原動力に変え、当事者の魂を燃やせ

【『安診Web』の実践知の比較】

・事前の計画通りにPMFは検証できなかった。自分も含めた個々の能力の測り違えていた。チームの役割分担を見直して突破する。

・客観的な検証は必要である。ただ誰でも判断できる無味無臭の意思決定に意味はない。圧倒的な根拠なき自信と眠れないほどの不安を両手で抱えながら意思決定する。

・機能やツールのスペックを売るのではなく、患者ファーストのストーリーを言語化し、先生と患者を直接繋ぐ価値を提供する。

「もっと早く出会えていれば」という個人の悔しさ(原体験)から始まった『安診Web』。平川氏の挑戦が教えてくれるのは、新規事業において最も強固なエンジンとなるのは、洗練されたフレームワークではなく、起案者自身の「嘘のない生々しい熱量」であるという事実だ。

 

そして、既存の営業セオリーが通用しない現場であればあるほど、効率化に逃げず、直接現場へ足を運ぶ「当事者としての執念」が突破口になる。

 

自前でリスクを負い、暗闇の中で手探りの検証を続ける『安診Web』のリアルな試行錯誤は、今日も不確実なロードマップと戦うすべての事業家たちへ、前へ進むための確かな推進力を与えてくれる。