💡INSIGHT SUMMARY(本記事のポイント)

  • キャリアの原体験: 人材(現パーソル)、楽天、創業を経て辿り着いたのは「人を口説く設計」の本質。マーケティングも採用も、ターゲットの心理と課題のギャップを埋める構造は同じ。
  • 新規事業の想定外(失敗原因): 最大の壁は「登る山(ゴール)を決めずに装備を買いに行く」こと。100点の計画を求めすぎてフリーズするか、既存事業の評価軸のまま新規事業を評価して自滅する。 
  • 意思決定のインサイト: 成功を左右するのは「事業のケツを持つ人の覚悟」。10-100(拡大期)の優秀者ではなく、0-1(立ち上げ期)を泥臭く推進できる人の選定と、撤退ラインを踏まえた階段型の投資判断が不可欠。

 

 1. 「人を口説く」構造は、採用もマーケティングも同じである

新規事業の立ち上げにおいて、なぜ多くの企業が「美しい事業計画」を描きながらも途中でフリーズしてしまうのか。

 

大手人材会社(現パーソル)での飛び込み営業、中小企業向け採用コンサル、楽天トラベルでの組織・営業教育、そしてグローカルの創業——。一見すると多様なキャリアを歩んできた株式会社グローカル代表取締役の浅野道人氏は、一貫して「人の意思決定ロジック」と向き合い続けてきた。

 

一方、求人メディアの事業責任者や代表を歴任し、現在は当事者として泥臭く事業開発を伴走するビジネススタジオ「HumAIn」事業責任者の菊池健生。

 

人材・事業開発の最前線を走り続けてきた2人が、中小・ベンチャー企業が新規事業でぶつかる「リアルな想定外の壁」とその突破口について語り合った。

 

菊池(HumAIn):浅野さんのキャリアは、創業期のインテリジェンス(現パーソルキャリア)からスタートされていますよね。元々はコンサルタント志望だったとお聞きしました。

 

浅野 氏:実は学生時代、元々は医者を目指して3浪した経験があるんです。途中で「このまま執着するのは逃げだ」と損切りし、その代わり「相手をより良くする伴走者になる」と決めて大学に進学しました。家庭教師をやっていた頃から、単に参考書(手段)を教えるのではなく、「志望校(ゴール)を仮置きし、模試結果とのギャップを課題として定義して埋めていく」というコンサルティングの基礎を実践していたんです。

 

その後、「アドバイスを仕事にする」コンサル業界を探す中で当時人材紹介や人材派遣をメインで手掛けていたインテリジェンスに出会い、コンサルタントになる前に組織の現場の実態を見るために、法人営業として入社しました。大阪支社・神戸支社での泥臭い人材派遣営業、マングローブでの中小企業向け採用コンサル、楽天トラベルでの人事・営業教育、そしてJACリクルートメントでの営業マネージャー・人事を経て、2012年にグローカルを創業しました。

 

菊池:採用、組織、そしてWeb集客や新規事業コンサルまで幅広く手がけられていますが、浅野さんの中で貫かれている共通の軸は何でしょうか?

 

浅野 氏:「人を口説くための設計をしている」という点では、すべて同じなんです。

採用なら「求職者が求めるもの」と「会社が提供できるもの」を原稿と面接で正しくすり合わせる。集客やマーケティングなら「旅行に行きたい人」の心理を理解して宿の魅力を届ける。媒体や対象が変わっても、「ターゲットの意志決定ロジックを解像度高く理解し、動かす」という本質は全く変わりません。

 

2. 「登る山」を決めずに、登山の道具を買いに行く企業たち

菊池:数多くの現場を伴走されてきた中で、中小・ベンチャー企業が新規事業や組織改革で陥りがちな「最大の想定外(失敗パターン)」はどこにあると感じられますか?

 

浅野 氏:家庭教師時代からずっと思っているのですが、「登る山を決めていないのに、登山の道具を買いに行こうとする」人が非常に多いことです。これは企業でも同じです。

 

登山であれば「ピッケルを買った方がいいですか?」、採用であれば「ビズリーチをやった方がいいですか?」と聞かれる前に、「そもそもどの山(ゴール)に登りたいんですか?」と。理想の状態(ゴール)を設定しない限り、現状との差分(課題)を洗い出すことはできません。

 

陥りがちな失敗パターン 本質的なアプローチ(あるべき姿)
手段先行: 「AIや最新ツールを使うべきか」から考える 逆算思考: 「いつまでにどんな事業状態を作るか」を仮置きする
完璧主義の停止: 100点のゴールが決まるまで動かない 仮説の更新: アタリをつけて仮置きし、検証しながら修正する
評価軸の混同: 既存事業(10-100)と同じ目線で評価する フェーズ分離: 0-1のフェーズに合わせた指標と投資段階を設ける

 

浅野 氏:「100点のゴール設定ができないならやるのは無駄だ」と考える人が多く、結局スタートすら切れない。解像度の高い目指すべきゴールイメージを仮置きし、「理想 − 現状 = 課題」として課題を全出しする。その上で課題を解決する手段を検討し、実行していくプロセスを作らなければ、新規事業は必ずどこかでスタックします。

 

 3. 新規事業を潰す「100匹の羊」と「1匹の狼」

菊池:事業計画通りに進まず、プロジェクトがフリーズしてしまう会社にはどんな共通点がありますか?

 

浅野 氏:明確です。新規事業が成功するかどうかは、「事業のケツ持ち(責任者)が本気かどうか」、それだけです。

 

よくある失敗は、既存事業で成功してきた評価軸(年10%成長など)のまま新規事業を測ってしまうこと。公共交通機関のように「100%の安全・確実性」を求める文化の会社が、そのままの感覚で新規事業をやれば、100%成功する確証が出るまで意思決定ができず、決済が遅れてコケます。

 

もう一つは、アサイン(人選)の間違いです。既存事業を伸ばすのが得意な「10→100(拡大期)の優秀な人」を新規事業の責任者に置いても、0→1は作れません。

 

菊池:組織の文化と、アサインする人材のミスマッチですね。

 

浅野 氏:既存事業の「羊の組織」に、変革を起こそうと「1匹の狼」を投入しても、100匹の羊に囲まれたら狼は圧死します(笑)。新規事業を成功させるには、狼をアサインするだけでなく、経営者がライフルを持って「俺の意思で入れたんだ」と狼を守る覚悟を持たなければならない。

 

新規事業を作るためには、まず「新規事業を作れる組織と覚悟」を整えることが先決なんです。

4. 「プレハブ」で試してから「RC造」を建てる段階的投資

菊池:リスクを最小限に抑えながら、新規事業を前へ進めるためにはどんなステップを踏むべきでしょうか?

 

浅野 氏:いきなり大きな予算を与えてシステム開発を始めるのは非常に危険です。ケガをしないためには、段階的な「4つのステップ」を踏ませるべきです。

 

  1. アイデア承認(設計図): 企画の目的と市場ニーズの存在を確認する
  2. シミュレーション(模型): 生成AIなどを活用し、企画者が自らモックを作成して検証する
  3. プロトタイプ(プレハブ): 仮設住宅レベルのシステムで、実際のユーザーに住んで(使って)もらい検証する
  4. 本格開発(RC造): ニーズが確実になった段階で、プロの開発会社と共に本番環境を構築する

 

浅野 氏:今はAIのおかげで、個人でも模型(モック)まで作れる時代になりました。しかし、それを商用サービスとして市場に出すには、セキュリティや拡張性も含めてプロのエンジニアと組む必要があります。自宅でゴーカートに乗るのと、公道で車を走らせるのの違いと同じです。

 

菊池:まさに私たちHumAInも、単に言われた仕様を作る開発会社ではなく、「開発を手段として、どうやって事業を伸ばすか」をクライアントと共に泥臭く伴走するチームでありたいと変わってきました。

 

浅野 氏:テクノロジーが素晴らしいだけで事業が成功することはありません。大切なのは「人の意思決定がどう行われるか」を理解しているかどうか。

 

グローカルもHumAInも、「ずるいことはやらない」「大義を持って逃げずにやり切る」という倫理観と現場主義が共通しています。だからこそ、戦略立案と泥臭い開発伴走という適切な役割分担で、共に事業を成長させられると考えています。

 

【後編へ続く】

後編では、グローカルとHumAInがなぜ今タッグを組み、中小・ベンチャー企業向けの「新規事業支援パッケージ」を共同開発しているのか。戦略と実装を融合させた新しい支援の全貌に迫ります。