株式会社秋田銀行は2026年10月6日、起業前または起業間もない個人を対象に、事業アイデアの段階から同行と共に新規事業をつくり上げる「ローカルスタートアップ共創プログラム『スクラム・コモンズ』」を開始すると発表しました。
何が発表されたのか
今回のプログラムは、審査を経て採択された最大3名の起業家が、秋田銀行と業務委託契約を締結し、最大24か月にわたって事業開発・実証に取り組むという枠組みです。採択者には、業務委託料として月額20万円(最大24か月・最大480万円)、事業実証にかかる費用として最大820万円が提供され、合計で最大1,300万円相当の資金的な支援が行われます。あわせて、新規事業づくりの専門家や秋田銀行の行員などで構成するチームが伴走し、同行の取引先ネットワークや、秋田県の経営者・後継者が集う「あきた未来塾」、JR東日本グループが運営するビジネス創造拠点「LiSH」といった既存のつながりも活用できるようにするとしています。
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プログラムの対象として挙げられているのは、起業に向けたアイデアはあるものの事業化に踏み出せていない人、試作品や見込み顧客はあるものの検証を進めたい人、起業後の顧客開拓や資金調達に課題を抱えている人です。完成度の高い事業計画や売上実績は応募の前提とせず、解決したい課題や実現したい地域・社会の姿があり、行動する意思があれば応募できるとしています。
同行はプログラムの発表にあたって、今回の狙いをこう表現しています。
「起業家を支援する」から「事業化前のチームをつくる」へ
なぜこの選択をしたのか
地方銀行が起業家支援に取り組むこと自体は珍しくありません。融資や紹介、相談対応といった形で、すでに事業を始めた、あるいは始めようとしている企業を後押しする動きは各地で見られます。今回の「スクラム・コモンズ」が意思決定として興味深いのは、支援の起点を「事業化前」、つまり融資の審査対象にすらなりにくい段階まで前倒しした点です。
プレスリリースでは、この前倒しの理由を次のように説明しています。
事業化前には、顧客へのヒアリング、課題の整理、試作品の作成、実証協力先の開拓、提供方法や価格設定の検討など、売上に直結しない活動が数多くあります。これらは、事業を成立させるために欠かせない一方、短期的な収益だけでは価値を測りにくい活動です。
収益性が見えにくい段階には、融資や投資という金融機関の既存の支援手段が届きにくいという構造があります。秋田銀行はこの空白を、助言や紹介にとどまらない「業務委託契約」という形で埋めようとしています。これは、起業家に対して外部から資金を提供する「投資家」としてではなく、事業づくりそのものに人材とコストを投じる「当事者」としてプログラムに関与する、という立場の選択だと読むことができます。
背景には、秋田銀行が2024年3月から実施してきた伴走支援プログラム「スクラム」での経験があるといいます。同行は、助言や紹介といった支援だけでは事業化前の課題解決が難しいという認識に至ったとしており、今回のプログラムはその延長線上に位置づけられています。
もうひとつ注目したいのは、事業の成長モデルに対する考え方です。プレスリリースでは、短期間での急成長やIPO・M&AなどのEXITを前提とする一般的なスタートアップ支援と、地域に根差した持続的な事業運営を区別し、後者を志向する姿勢を示しています。
「スクラム・コモンズ」は、急成長やEXITのみを事業化の基準とせず、秋田に根付き、地域に価値を還元しながら持続的に成長する事業を、事業化前から起業家とともにつくります。
地方銀行という立場で見れば、急成長・短期EXITを前提とした支援は必ずしも自行の強みと噛み合うとは限りません。むしろ、地域に根を張り、長く取引関係を築いていけるローカルな事業を自ら育てるほうが、金融機関としての存在意義や中長期的な取引基盤の形成につながりやすいとも考えられます。今回のプログラムは、起業家支援という社会的な意義と、地方銀行としての事業上の合理性の両方を満たす設計になっているとみることができます。
なお、プログラムが事業化に至らなかった場合の扱いについても言及があり、採択者が負債を抱えることなく、得た経験や知見、地域企業とのつながりを次の挑戦に生かせるようにするとしています。
読者への示唆
新規事業の担当者にとって、今回の事例が示すのは「支援を受けるタイミング」の再定義です。融資や出資といった従来の資金調達手段は、事業の収益性やリスクがある程度見通せる段階を前提としています。しかし実際には、仮説検証を重ねる初期段階にこそ、人材・資金・顧客接点の不足が事業の芽を摘んでしまうことが少なくありません。秋田銀行のように、事業化前の段階に踏み込んで伴走する主体が現れることで、これまで支援の手が届きにくかった層にも選択肢が広がる可能性があります。
一方で、業務委託契約という形態は、起業家にとって資金調達の自由度や将来の事業運営における裁量とのバランスをどう考えるかという論点も含みます。地域に根差した持続的成長を志向するプログラムである以上、急成長を目指す起業家にとっては必ずしも最適な選択肢とは限らないという点も、応募を検討する際には踏まえておく必要がありそうです。
■株式会社秋田銀行について
名称 :株式会社秋田銀行
所在地 :秋田県秋田市山王三丁目2番1号
代表者 :頭取 芦田 晃輔
設立 :1879年01月
資本金 :1億4100万円
事業内容:銀行業
URL :https://www.akita-bank.co.jp/
株式会社秋田銀行・2026年10月6日のプレスリリースより引用