INSIGHT SUMMARY
- サイト制作の汎用性化: AIで「作るコスト」は激減した。制作技術自体で差別化できなくなった今、検索流入だけに依存せず、自社の一次情報をどう蓄積・再利用するかが問われている。
- ツール比較の前に問うべき3つの問い: 「①資産か使い捨てか」「②保守体制はあるか」「③誰が更新するか」。この現実を見ずにツールを選ぶと、半年後には誰も触れない「放置されたサイト」になる。
- 【実践知】STUDIO INSIGHTはWord Press使用: このメディアSTUDIO INSIGHTは「将来、データを別のシステムやAIへ自由に移行・活用できる状態(データのポータビリティ)」を最優先し、初期構築と保守の負担を引き受けて自前運用のCMSを選択した。
「新規事業のテストマーケティング用に、とりあえずサイトを作って」
「要件をAIに入れれば、1日でサイトの枠組みができるでしょ?」
経営会議や新規事業の立ち上げ現場で、最近よく耳にする会話です。確かにAIを使えばサイトを「作る」こと自体のハードルは劇的に下がりました。
しかし、この手軽さには大きな落とし穴があります。サイトは作って終わりではありません。「誰が、どの頻度で、何を更新し続け、セキュリティを守るのか」という運用設計を飛ばして安易なツール選びをすると、半年後には誰も更新しない・誰も保守できない「放置されたサイト」になりかねません。
この記事ではAI時代のサイト運営の現実を紐解き、自ら新規事業を立ち上げる当事者として「私たちは何を基準に迷い、何を選び、何を捨てたのか」という意思決定のリアルを共有します。
※本稿の数値はすべて出典を明記した公開調査・公式発表の記載値です。
1. AIがサイト制作をコモディティ化させた結果、何が起きるか
「AIで簡単にサイトが作れるなら、とりあえずAIに作らせればいいのではないか」
この問いに答えるためには、現在のWebを取り巻く環境がどう変化しているのか、現実を見る必要があります。
この1〜2年で、「サイトを作るコスト」と「ユーザーに情報を届ける難易度」は完全に逆方向へ動きました。
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- 「作るコスト」は劇的に下がった
自然言語の指示から画面やアプリの枠組みを自動生成できるツールが一般化しました。非エンジニアでも「それっぽいサイト」を秒で作れる時代です。 - 「届ける難易度」は急上昇した
一方で、作ったサイトを見てもらう難易度は跳ね上がっています。Pew Research Centerの調査(2025年3月・米国の成人対象)によれば、検索結果のトップにAIによる回答(要約)が表示された場合、ユーザーがその下の通常リンクをクリックする割合はわずか8%に落ち込みます。さらにSparkToroの調査では、米国Google検索(2026年1〜4月)において「検索したけれど、どこもクリックせずに離脱する割合」は68.01%に達しています。
この二つのデータが示しているのは、「誰もが簡単にサイトを作れるようになった結果、検索エンジン経由で人が読みに来てくれる前提が崩れた」という現実です。
AIで誰でもサイトが作れる時代において、「何で作ったか」といった制作技術そのものでは、もう差別化できません。
だからこそ、これからの情報基盤は「検索結果からサイトへ人を呼び込むこと」だけを目的にするのではなく、「検索以外の接点(SNS、営業資料、将来のAI活用など)でも再利用できる、自社固有の一次情報をどう蓄積するか」まで見据えて設計する必要があります。
2. 新規事業の情報基盤を決める「3つの問い」
では、無数にあるツールの中から何を基準に選べばいいのでしょうか。
自社の「運用体制」を元に考えてみてください。以下の3つの問いで、自社の現在地を確認してください。
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① そのサイトは「資産」か「使い捨て」か?
- 使い捨て(短期検証): 数ヶ月で終わるキャンペーンや、初期仮説検証用のペラ1枚のLPであれば、手軽なサイト作成SaaSやAI生成ツールが有力です。
サイト作成SaaSとは:自社でサーバーを用意したり、プログラミングのコードを書いたりすることなく、画面上の直感的な操作(ドラッグ&ドロップなど)だけでWebサイトを制作・公開できるクラウドサービスのことです。例えば、Studioなどのツールがそれに当たります。
- 長期資産(ストック): 顧客の悩みや導入事例など、事業が続く限り自社の一次情報を貯め続けるのであれば、データを長期的に管理できる基盤が必要です。
② セキュリティの保守を担当する人間が「社内」にいるか?
- いない: 専任の保守担当がいない体制なら、セキュリティ管理をプラットフォーム側が巻き取ってくれる「SaaS型」を選ぶのが安全です。
- いる: 自社(または外部パートナー)で定期的に保守・アップデートを行う体制が組める場合のみ、自前でシステムを構築・拡張する選択肢を持てます。
③ 定期的に更新するコンテンツはあるか
- 非IT人材: もしコラムなど定期的に更新するコンテンツがある場合、記事編集や権限管理の使いやすさが更新頻度に直結します。
- エンジニア: 更新作業を開発者が担うのであれば、管理画面の使いやすさよりも、データ構造や外部システムとの連携の自由度を優先できます。
3. 3つの問いからツールを絞り込む
先ほどの3つの問いを順番に当てはめていくと、自社がどのツールを選ぶべきか、具体的な方向性が見えてきます。
ステップ1:「短期検証」か「長期資産」か
もし、立ち上げ時の仮説検証用LPなど「短期検証(使い捨て)」が目的ならば、まずは手軽なサイト作成SaaSやAI自動生成ツールが有力な候補になります。保守や運用のことを難しく考える必要はありません。
ステップ2:(長期資産の場合)「保守体制」はあるか
今後何年も情報を貯め続ける「長期資産」にしたい場合、次に問うべきは保守体制です。
社内にシステムのアップデートや脆弱性対応を行う体制がない場合、自前でシステムを組むと、将来的にセキュリティリスクを抱えたまま運用することになります。この場合は機能に多少の制約があっても、保守を任せられるCMSを選ぶのが鉄則です。
ステップ3:(保守体制がある場合)「誰」が更新するか
情報を長期資産化し、かつ自社で保守を引き受けられる企業にのみ「自前運用のCMS」という選択肢が生まれます。ここで最後に、「誰が更新するか」でツールを絞り込みます。
CMSとは:プログラミングの専門知識がなくても、Webサイトの構築や記事の更新が簡単にできるシステムのことです。CMSの代表例として世界で最も利用されているのはWordPressとなります。
通常、Webサイトの文字や画像を修正するには「HTML」などの専門的なコードを直接書き換える必要があります。しかし、CMSを導入すると「デザイン(枠組み)」と「コンテンツ(文章や画像)」が分離されてシステム上で自動管理されます。
そのため、エンジニアではない現場の営業や広報担当者でもWordなどの文書作成ソフトを使うのと同じような直感的な操作で、タイムリーに情報を発信・更新できるようになります。
- 現場の非IT人材が更新する: 記事の編集作業や、担当者ごとの権限管理(投稿者・編集者など)が扱いやすいCMSが候補になります。
- エンジニアが更新し、外部にも配信する: 管理画面のUIよりも、データ構造を自由に設計し、他のアプリ等へ情報を連携しやすい開発者向けのCMSを選ぶ選択肢もあります。
ツール選びとは、機能の優劣を比べることではありません。「自社が何を優先し、どんな運用負担なら引き受けられるか」を決める作業なのです。
4. 【実践知】私たちが、あえてCMSを選んだ理由
実はここまでの整理は一般論ではなく、私たち自身の実体験でもあります。この『STUDIO INSIGHT』を立ち上げるとき、私たちもツールのメリット・デメリットを天秤にかけました。
私たちはビジネススタジオの運営を行っています。仮説検証のサイクルを早めるためにスピード感は大事です。立ち上げの速さや保守の手軽さだけを優先するなら、前述の「サイト作成SaaS」を選ぶのが最も合理的です。
しかし最終的に私たちが選んだのは、あえて初期構築に時間をかけ、「自前運用のCMS(WordPress)」を選択するという道でした。
私たちが最も優先したかったのは、「将来的に蓄積した情報を、自社プロダクトや別のシステム、AIなどへノウハウを引き渡せる状態」を確保することでした。
SaaSは手軽で非常に優秀ですが、データ構造やエクスポートの方法が「サービス側の仕様」に依存する部分があります。将来事業が育ったときに連携の柔軟性を担保するため、以下の条件を満たす必要がありました。
- メディア構造の柔軟な変更(事業フェーズに合わせてメディアの形を変えられること)
- マーケティングツールとの連携(MAツール等へのデータ受け渡しを制限なく行えること)
- 複数人での運用体制(PM、ライター、デザイナー等の権限管理を保てること)
これらの条件を満たし、かつ「データのポータビリティ」を最優先した結果、私たちはWordPressを選びました。
実際に引き受けている「保守の負担」
ただし、私たちがWordPressを使ってきた中でも、昨今の保守負担は決して小さくはありません。たとえば2026年7月以降だけを見ても、毎月のようにセキュリティ修正を含むアップデートが相次いでいます。中でも特筆すべきは、以下の2つのような致命的な脆弱性(システムの弱点)への対応です。
- 2026年7月17日(Ver 7.0.2): 外部から不正な命令を送られ、サーバー上で勝手に処理を実行される危険性が発生。事態を重く見た公式が「強制自動更新」を発動するほどの異例の事態でした。
- 2026年9月22日(Ver 7.1.2): ログインしていない外部の人間がサーバー内のファイルを悪用してサイトが乗っ取られる可能性が発生。公式でも最高危険度の「Critical」として警告されました。
100%安全なシステムはありません。特に世界シェアトップである自前運用のCMSは、常に攻撃者の標的になります。脆弱性情報を確認し、即座にアップデートを適用する継続的な対応が必要です。「WordPressは一度構築したら終わり」どころか、事業リスクそのものになり得ます。
それでも現時点では、多少の保守コストを鑑みても、将来の事業資産の自由度を確保するべきだと判断したのです。 前章の「このサイトは資産か?」「保守の体制はあるか?」という現実に向き合い、私たちなりの意思決定の結果です。
ツール比較の前に「運用する現実」を定義しよう
AIの普及で、Webサイトを作るハードルは劇的に下がりました。だからこそ、論点は「制作」から「運用」へと完全にシフトしています。
制作がどれだけ手軽になっても、「自社の生きた情報を更新し、安全に保守し続ける」という義務が消えるわけではありません。開発ベンダーの持ってくる専門用語だらけの比較表や、「AIで簡単!」という謳い文句に流されないでください。
新規事業の担当者が、まず社内で(そして役員会で)定義すべきことは実にシンプルです。
「私たちは今後、誰が、どの情報を、どんな頻度で更新し、誰が守り続けるのか?」
ここさえ定義できれば、「手軽なツールで検証を急ぐべきか」、それとも「保守コストを払ってでも資産となる基盤を作るべきか」、選ぶべき道はおのずと見えてきます。私たちと同じように保守を引き受けてCMSを構築する企業もあれば、迷わずSaaSを選ぶ企業もあるはずです。それで良いのです。
「システム開発の専門用語は分からないが、自社の新規事業に最適な情報基盤を、事業目線で選びたい」その要件定義と運用の壁打ちから、株式会社HumAInが当事者として伴走いたします。