株式会社REXは2026年9月25日、退職予兆・労務監視プラットフォーム「REX(レックス)」の提供を開始したと発表しました。従業員の「本音」をアンケートで尋ねるのではなく、勤怠の打刻やチャットの送受信タイミングといった行動ログから予兆を検知する点が特徴です。
何が発表されたか
REXは、Slack や Teams の使用頻度・チャンネルごとのアクション数・DM比率の変化、勤怠の打刻状況といった行動データを解析し、退職やメンタル不調の兆候を早期に察知するSaaS型プラットフォームです。全社の「健康度」の推移を可視化したうえで、リスクが高い従業員を危険指数順にリストアップし、現場が実行できる打ち手を「Fact(現状)」「Why(背景)」「Action(対策)」の3点に構造化して提示します。さらに、36協定や就業規則といった法的な基準と行動データを照合し、単なる気分の問題か、是正が必要な労務リスクかを見分ける仕組みも備えているといいます。
会社側は開発の背景として、次のように説明しています。
「現場では『退職届を出されて初めて人事や経営陣が気づく』という悲劇が絶えません。社員の本音はアンケートの言葉ではなく、日々の行動ログの変化にすべて現れています。精神科医の知見や学術データを結集したREXにより、手遅れになる前に適切な救出(ラインケア)ができる社会を目指してまいります。」(株式会社REX 代表取締役/退職予兆の専門家 村上亮氏)
なぜ「サーベイ」ではなく「行動データ」を選んだのか
離職予兆の把握といえば、これまでは定期的なエンゲージメントサーベイやパルスサーベイが主流の手法でした。しかし今回のプレスリリースが指摘するのは、その手法そのものが抱える構造的な限界です。プレスリリースでは、退職直前まで良好な回答をしていた社員が、ある日突然辞めてしまうという現象が起きがちだと説明されています。
この背景として、会社側は日本特有の文化的傾向を挙げています。国際比較データにおいて、日本はうつ病の罹患率が相対的に低い一方で自殺率は高いという、一見矛盾した数字が存在するとし、これを「職場でメンタルの不調や不満を言えない文化」の表れだと位置づけています。この解釈が学術的にどこまで一般化できるかは慎重に見る必要がありますが、少なくとも「本人に直接尋ねる」という調査設計自体に限界があるという問題意識は、多くの人事担当者が実感として持っているものでしょう。
REXがサーベイではなく行動データに軸足を置いた最大の理由は、プレスリリースの言葉を借りれば「勤怠の打刻」や「チャットのレスポンス速度・送信時間」といった行動のメタデータは偽造が困難である点にあります。アンケートは本人が回答を選べてしまう以上、本音を隠そうと思えば隠せます。一方で、日々の業務の中で無意識に残る行動の痕跡は、意図的に取り繕うことが難しいという発想です。
この設計思想を支えるのが、プレスリリースが挙げる3つの要素です。1つ目は、300社超の組織・人事改革支援や14社連続のIPO支援で得た実務知見に加え、資源保存理論(COR理論)を応用し、「チャットの返信が遅れる」という行動を、精神的なエネルギーの枯渇から自分を守るための防衛反応として読み解く視点です。2つ目は、SNSやビジネスチャットの利用パターンから心理的な孤立やテクノストレスの兆候を捉える行動心理学的な解析です。3つ目は、法的な基準と行動データを重ね合わせ、単なる主観的な不調と、是正が必要な労務リスクとを切り分ける複合的な監査の視点です。行動ログという「量」のデータに、労務・医学の知見という「質」の解釈を組み合わせることで、精度を担保しようとしていることがうかがえます。
もう一つ注目したいのは、リスクを検知するだけでなく、退職者1名あたり約675万円ともいわれる損失を月単位で試算し、財務インパクトとして提示する機能です。人事領域の課題は、経営層にとって「重要だが数字にしにくい」ために後回しにされがちです。あらかじめ金額換算した数字を用意しておくことで、経営会議の議題に載せやすくする狙いがあると読めます。
読者への示唆
このリリースが投げかけているのは、「従業員の本音を知りたければ、直接尋ねればよい」という前提そのものへの疑問です。サーベイという手法は、回答者が安心して本音を語れる関係性や心理的安全性があって初めて機能します。裏を返せば、その関係性が十分でない組織ほど、サーベイの結果は実態からずれやすいということになります。
新規事業や組織づくりに携わる担当者にとっての論点は、「行動データを使うかどうか」そのものよりも、自社の従業員がどの程度「本音を言える」状態にあるかを見極めることでしょう。心理的安全性が高い組織であれば、サーベイという直接的な手法でも十分に機能するはずです。一方、階層が固定化していたり、評価が申告内容に直結しやすい組織ほど、本人の申告に依存しない仕組みを補完的に持つ意味が大きくなります。行動データの活用には、監視的に受け取られるリスクや個人情報の取り扱いといった論点も伴うため、導入にあたっては目的の説明とルール整備が前提になる点も踏まえておく必要があります。
「アンケートで聞く」以外に、組織の状態を把握する手段をどう設計するか。REXの発表は、その選択肢の一つを具体的に示した事例として読むことができます。
■株式会社REXについて
名称 :株式会社REX
所在地 :東京都豊島区池袋2-11-9 BLOCKS IKEBUKURO 5F
代表者 :村上亮
設立 :2025年9月
事業内容:SaaSプロダクトの開発・運営
URL :https://r-e-x.com/
株式会社REX・2026年9月25日のプレスリリースより引用