株式会社PR TIMES(東京都港区、代表取締役:山口拓己)は、2026年8月6日、自社が運営するタスク・プロジェクト管理ツール「Jooto」について、2027年7月31日をもって一般提供を終了し、事業そのものを廃止することを発表しました。プレスリリース配信サービス「PR TIMES」を主力事業とする同社にとって、Jootoは事業ポートフォリオの一角を占めるSaaSプロダクトでした。しかし、複数の成長施策を講じてもなお競争優位を確立できず、営業損失が続く状況を踏まえ、「投資を継続する」ではなく「独立事業としての廃止」という選択に至りました。
何が発表されたのか
「Jooto」は、企業のタスク・プロジェクト管理を支援するSaaS型ツールで、Web版・iOS版・Android版アプリケーション、有料プラン、外部システム連携API、生成AI関連機能、さらに導入支援やBPR(業務プロセス再設計)・適用開発までを提供してきました。2026年7月末時点の有料契約社数は2,379社にのぼります。
今回の発表により、発表日の2026年8月6日をもって新規利用登録・新規有料契約・アップグレード・新たな導入支援等の受付は終了し、既存顧客は契約条件に従って2027年7月31日まで利用を継続できます。契約更新や料金・返金の取り扱いは契約形態に応じて個別に案内するとしています。
なお、同社Jooto事業部が連結子会社の株式会社グルコースと共同で、トヨタ自動車株式会社向けに開発している業務管理ツール「標準の箱」は、今回の廃止対象には含まれず、従来どおり提供が継続されます。
なぜ「投資継続」ではなく「事業廃止」だったのか
プレスリリースが挙げる最大の理由は、複数年にわたる成長施策を尽くしてもなお、事業を持続的に伸ばすための競争優位を築けなかったという事実です。同社は、料金プランの見直し、機能改善、営業・カスタマーサクセス体制の強化、生成AIを活用した新機能の追加、個別の業務システム開発案件の拡大など、一般的な成長ドライバーをひととおり試みています。それでも新規顧客獲得、既存顧客の継続・組織内利用拡大、エンタープライズ領域への展開、個別開発案件の他社への横展開のいずれについても、持続的成長を実現する優位性を確立するには至らなかったといいます。
売上高は計画を下回る状況が続くなかで、今期の売上高は前期比マイナスに落ち、事業を開始して以来、営業損失が継続しております。
直近の数値を見ると、2026年2月期のJooto事業単体の売上高は387百万円、営業利益は▲17百万円。直近第1四半期(2026年3月〜5月)でも売上高85百万円に対し営業利益は▲16百万円と、赤字基調が続いていたことが読み取れます。プレスリリース本文には過去の推移を示す複数年の時系列データまでは示されておらず、「計画未達がどの程度続いていたか」の詳細は今回の発表だけでは確認できません。
注目したいのは、判断の枠組みとして同社が明示している考え方です。単に赤字だから撤退するのではなく、「追加投資によって期待できる成長や収益」と「資本・人材を同事業に投じ続ける機会費用」、そして「既存顧客へ長期にわたり安定したサービスを提供する責任」の3つを総合的に比較検討したとしています。
「Jooto」が築いてきた顧客基盤、技術及び知見には重要な価値があります。一方、追加投資によって期待できる成長や収益と、そのために資本及び人材を同事業に投じ続ける機会費用、並びにお客様へ長期にわたり安定したサービスを提供する責任を総合的に検討した結果、独立した成長事業として投資を継続する合理性は乏しいと判断いたしました。
さらに、経営判断の原則として「挑戦した事実そのものを投資継続の理由としない」という一文が置かれている点も、意思決定の背景を読み解くうえで示唆的です。
当社は、新しい挑戦を続けるためにも、挑戦した事実そのものを投資継続の理由とせず、検証された事実に基づいて資源配分を自己修正することが経営の責任であると考えております。
これは、いわゆる「サンクコスト(埋没費用)」に引きずられて投資を続けることを避け、検証された事実だけを判断材料にするという姿勢の表明といえます。新規事業や社内プロダクトが一定期間赤字を許容されて運営されるのはよくあることですが、「どこまでの期間・条件を試したら、継続ではなく撤退を選ぶか」という基準を、外部に説明可能な形で言語化している点は、他社の新規事業運営においても参考になる部分です。
撤退にあたっての配慮
今回の発表では、単なる事業終了の告知にとどまらず、影響を受ける関係者への対応方針も具体的に示されています。
既存顧客への対応
2,379社の有料契約者に対しては、提供終了日(2027年7月31日)まで約1年間の移行期間を設け、サービス品質・セキュリティの維持、データの出力・移行支援、前受利用料金の精算などに責任を持って取り組むとしています。
従業員への対応
2026年7月31日時点でJooto事業に従事する社員は15名です。プレスリリースでは次のように説明されています。
当社は、事業を終了する判断と、そこで働いてきた社員一人ひとりの能力や今後の活躍は、別のものだと考えています。
対象社員は、提供終了までは顧客対応・サービス運営・移行支援を担い、その後は原則として段階的に社内の他事業へ再配置される方針です。事業の終了と人材の評価を切り分けて説明している点は、撤退を発表する際のコミュニケーションのあり方として目を引きます。
今後の見通しと財務面への影響
同社は、本件を織り込んだ2027年2月期の連結業績予想について、修正の要否を含めて見直しを進めているとしています。Jooto事業の新規契約停止と既存契約のランオフにより売上高は減少する見込みですが、同事業がもともと営業損失を計上していたことから、連結営業利益への影響は売上高減少幅に比べて相対的に限定的と見込んでいます。一方で、顧客対応・データ移行支援、前受利用料金の精算、外部契約の終了、システム停止・データ削除などに伴う一時的な費用の発生可能性があり、現時点ではその金額を精査中とのことです。
なお、Jooto関連資産については2020年2月期に減損損失を計上済みであるため、今回の決定に伴う追加の減損による重要な影響は現時点で見込んでいないとしています。修正の要否や詳細は、2026年10月14日に予定する第2四半期決算発表と合わせて公表される見通しです。
※EBITDA=営業利益+減価償却費+のれん償却額+株式報酬費用
読者への示唆
新規事業やプロダクトの担当者にとって、今回のケースが示すのは「撤退の判断基準をあらかじめ言語化しておくことの重要性」です。PR TIMESは、料金体系の見直しから生成AI活用まで、一般的に有効とされる成長施策をひととおり実行したうえで、それでも競争優位を確立できないという「検証された事実」に基づいて撤退を決めています。感覚的な「まだ伸びるかもしれない」という期待ではなく、機会費用と顧客への責任を軸に据えて意思決定を行った点は、複数の事業を並行して運営する企業が参考にできる考え方です。
また、撤退の実行局面においても、既存顧客への十分な移行期間の確保や、従業員の評価と事業継続可否を切り分けて説明する姿勢は、「どう終わらせるか」もまた重要な経営判断であることを示しています。
■株式会社PR TIMESについて
名称 :株式会社PR TIMES(東証プライム・名証プレミア 証券コード:3922)
所在地 :東京都港区赤坂1-11-44 赤坂インターシティ8F
代表者 :代表取締役 山口拓己
設立 :2005年12月
事業内容:プレスリリース配信サービス「PR TIMES」、ストーリー配信サービス「PR TIMES STORY」、動画PRサービス「PR TIMES TV」、アート特化型オンラインPRプラットフォーム「MARPH」、カスタマーサポートツール「Tayori」、タスク・プロジェクト管理ツール「Jooto」の運営ほか
URL :https://prtimes.co.jp/
株式会社PR TIMES・2026年8月6日のプレスリリースより引用